【三恵シーアンドシー】モノづくりと健康経営。100年に一度の変革期の自動車業界を支える技術を創造
三恵シーアンドシーは、自動車製造で必要となる治具・専用機をオーダーメイドで一つ一つ作り上げる会社。長い歴史の中で培われてきた高い技術とノウハウを持っています。そんな三恵シーアンドシーの強さを支えているのが健康経営。大手企業や自治体からの信頼感を生み、変革期を迎えた自動車業界の中で、新たな技術を創造できる人財育成にも健康経営は良い影響をもたらしています。(インタビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表 熊倉 利和)
目次
1.行政とWin-Winで健康経営を推進
――まずは御社の事業内容から教えてください。
成戸社長:はい。自動車はたくさんの部品から構成されていますが、私たちはそれらの部品を生産する時に使われる治具・専用機メーカーです。たとえば、エンジンを加工する際に押さえつける治具、ガソリン噴射ポンプの製造ラインで使われる専用機などです。自動車部品づくりで必要となる治具・専用機を一つ一つオーダーメイドで作り上げている会社であり、お客様としては、デンソーさんやジェイテクトさんなどトヨタ系の部品メーカーさんが中心です。
――健康経営に取り組み始めたのはいつ頃ですか?
岩井さん(管理部):2018年です。健診で35歳未満の人も含めて血液検査をしたところ、「経過観察」「再検査」となる人が驚くほど多く出ました。成戸社長とも「そろそろ当社も健康経営が必要なのではないか」という話をしていたところでしたし、これを機会に会社を挙げて健康経営に取り組み始めました。
成戸社長:お客様であるデンソーさんやジェイテクトさんなど大手企業が健康経営に取り組んでいることは知っていましたし、社員の健康を大切に考え、健康づくりをサポートしていくことは、当社自身の競争力を高めることにも繋がると感じていました。特に中小企業にとっては、一人一人の社員が貴重な存在。そのため、大手企業以上に社員の健康を大事にする必要があるのではないかとも思っていました。
――具体的にはどのような取り組みをしていますか?
成戸社長:私たちのいる愛知県大府市は、「健康づくり都市」を宣言しており、健康イベントなども盛んです。その中で私たちはウォーキングイベントに参加しました。これは大府市が音頭をとって市民や市内の企業に声をかけ、歩数を競う対抗戦を行うもの。社員みんなで参加できる健康イベントを求めていましたので、まさにピッタリでした。このウォーキングイベントには、社内の中でいくつかのチームを作り参加しました。
このように行政の制度やイベントを活用すれば、自分たちで一から立ち上げるなどの苦労をせずに、効果的な健康施策を行えます。逆に大府市から当社は市内の健康経営トップ3企業として認知してもらい、「健康関連なら三恵さんにお声がけしなければいけませんね」と言ってもらったり、愛知県の健康に関する研究事業にも協力をさせていただいています。このように行政とwin-winの関係を築きながら健康経営を推進しています。
2.健康経営は社内を活性化するツール
――健康経営を推進する際、どうやって社員を巻き込むかでどの企業も苦労しています。御社ではどのようにしましたか?
岩井さん:ウォーキングイベントでは、山崎が社員一人一人に声をかけてくれたことが一番大きかったと思います。健康経営は2018年にスタートし、山崎は2019年に入社。ウォーキングのプログラムを始めたのも2019年ですから、最初から関わってくれています。
山崎さん(管理部):私が入る前から健康経営の下地づくりはなされていました。ですから、私はその土台の上でウォーキングイベントを進めていけばよかった。どうせやるならみんなに参加してもらいたいので、声がけを積極的に行いました。グループLINEをつくって「今から歩きに行きます」などとコミュニケーションをとっているチームもありましたし、イベント後も普段は会話がなかった人とも「すごいね。いい成績だったね」と話したりしました。健康づくりはもちろん、社員の横の繋がりや一体感の醸成にも役立ったと思います。
成戸社長:私もウォーキングイベントに参加しました。残念ながら成績は思わしくありませんでしたが(笑)。
――経営者は2つのパターンに分かれると思います。自分が参加すると社員が萎縮してしまうと考えて健康イベントに参加しないタイプと、社員と一緒になって盛り上がるタイプ。
成戸社長:私はみんなで一緒にやろうよというタイプです。それと、トップダウンで強制することもしたくありません。会社や上司から言われたから仕方なく参加するというのではなく、社員自ら参加したくなるような巻き込み方、雰囲気づくりを大切にしています。
――今後はどのような健康施策を行なっていきますか?
成戸社長:はい。やはり短期間ではなく、通年でできるような会社独自のイベントも企画していきたいですね。堅苦しい感じではなく、みんなでワイワイ楽しみながら健康になろうよというスタンスですので、自治会(社内の親睦に関する会)などに主導してもらうのがいいかもしれません。
――コロナ禍もあり、社員同士の横の繋がりをどうするのかで悩む企業が多くなっていますね。
成戸社長:そうですね。確かにコロナ禍で社員同士がface to faceで話したり、みんなで集まったりする機会が減っていますので、健康イベントなどを通じてコミュニケーションの活性化を図っていきたいと思っています。
3.信頼度が高まり、新規顧客の開拓に成功
――健康経営に取り組み始めてから、ビジネスにも何か良い影響は出ていますか?
成戸社長:そうですね。健康経営に取り組むことで、大府市の中で三恵シーアンドシーという会社の認知度、存在感が高まっていると思います。私は、商工会議所の総務委員会の委員長をさせてもらっていますが、その活動の中でも、「健康経営に取り組んでいる、あの三恵シーアンドシーですか」と言ってもらえるようにもなっています。このように健康経営をすることで認知度、安心度が高まり、大府市関連の仕事など新規開拓にも繋がりました。社員の健康づくりに取り組んだことが相乗効果を生み、経営に良い影響が出ています。
また、市の健康イベントなどに会社の名前で参加することで、「自分たちは三恵シーアンドシーの一員なんだ」という社員の意識も強まっていると思います。それが仕事においても、営業だけでなく、設計やモノづくりの現場の人たちも含め、自分は三恵シーアンドシーの代表なんだという意識で仕事に取り組んでもらえるようになっています。それがお客様からご評価いただき、「じゃあ、三恵に仕事を頼もうか」「三恵に声をかけようか」ということに繋がっているのだと思います。
――健康経営を新規顧客の獲得や社員の意識変革にも繋げているのですね。とても素晴らしいです。
4.会社は人が輝くための場所
――御社の場合、自動車の製造シーンに合わせて一つ一つの治具や専用機を作っています。高い技術やノウハウがあるからこそできることですが、たとえば、新卒で入社した人が一人前と呼ばれるまでにはどれくらいの時間が必要となりますか?
成戸社長:そうですね。職種や役割によって異なりますが、最低でも3年から5年くらいは必要となるでしょう。さらに、お客様との打ち合わせ、仕様の決定、設計、必要なモノの手配、機械加工、組み付け(加工された部品を取り付ける作業)をして完成という一連の流れ、全工程を理解でき、本当の意味で全部を任せられるとなると10年はかかるでしょう。
――それほど人財育成に時間がかかるとなると、長く元気に働いてもらう必要があり、健康経営は欠かせませんね。人財育成に関して何か課題はありますか?
成戸社長:これは当社に限らず、この地区の中小製造業の共通の課題でもあるのですが、創業の頃から長く働いてくれているベテラン社員が多い一方、その下の世代が抜けています。若い社員は増えているのですが、経験豊富で脂の乗った中堅社員の層が薄い。
そういった状況の中、うまく技術を継承していかなければ会社の歴史が途絶えてしまうという危機感を持っています。そのためにも人財育成がとても重要ですが、同時に難しい点でもあります。お客様が求めるレベルも年々高くなっていますし、それに応えられる人財をどう育てていくかが私たちの大きな課題です。
今、その課題解決のために取り組んでいるのがジョブローテーション。これまでは自分の技を磨き、一つの分野を突き詰めるという職人タイプが多く、基本的には、同じ部署で同じ仕事をずっとしてもらってきました。ですが、自分の仕事だけでなく、前工程、後工程のことも理解していないとうまく流れていきませんし、仕事の質を高めるのにも限界がある。そこでこの数年、部署間で人の入れ替えを積極的に行うようにしています。
――シニアや女性活用といったダイバーシティについてはどうでしょうか?
成戸社長:はい。経験豊富なベテラン社員はとても貴重な存在。ですから、年齢が上がってもずっと働いてほしい。それとともに、女性の活躍にも大いに期待しています。ある女性のケースですが、彼女は最初、パートとして働いていました。子育てが一段落した後、しっかりとした技術を身につけたいということで正社員になってもらい、今では自分で機械を操作し部品の加工をしてくれています。
つまり、自分自身でどんな人生を歩みたいかを考え、それを実現するための働き方を選択していく。会社の中で自分を輝かせることを探し、努力を続けていく。そういう人をどんどん増やしていきたいと思っています。
――「現場は男の仕事だから、女性に入ってきてもらうのは困る」と反発する人はいませんでしたか?
成戸社長:いえ、逆に現場は女性の力を求めています。女性がいると雰囲気も明るくなります。また、鉄工所だと油まみれで力仕事をするというイメージがあるかもしれませんが、今はNC工作機械(数値制御によってコントロールされる工作機械)も普及し、プログラム通りに機械を動かすことができます。
プログラムを組んだり、決められた基準をしっかり守るといったことはむしろ女性のほうが合っているかもしれません。ですから、現場としても女性は大歓迎です。性別も年齢も関係ありませんし、一つの職種に固執する必要もありません。様々な仕事を経験してみて、合ってなければ部署を移って違う仕事をすればいい。そうすることで、自分が本当にやりたかった仕事や適性が見えてきます。
ダイバーシティやインクルージョンに関しても、当社のような小さな会社だからこそやれることがありますし、やらないといけないことがある。この会社の中でも個性豊かな人がたくさんいます。育った環境が違う、様々な個別の独自能力を持った人がいる。そういう多様な人たちが混ざり合いながら、刺激を受け合い、仕事に取り組んでいくことが会社の底上げになると思っています。
5.100年に一度の大変革期を担える人財
――今後のビジョンをお聞かせください。
成戸社長:はい。これまでやってきたようなものや、その延長線上にある仕事については、半世紀以上の経験・実績があり、お客様からも信頼いただけていますので心配していません。その一方、今、自動車業界は100年に一度の大転換期を迎えています。自動車は単なる移動の手段から、モビリティサービス(移動に関わるあらゆるサービスの提供)のツールへと変貌を遂げようとしています。
そうなると、自動車を構成する部品も変わってきますし、これまでの生産技術・生産設備だけでは新しい自動車づくりに対応できません。お客様から「今までとは違うモノをつくりたいのですが、三恵さんでできますか?」と言われたとき、期待に応えられる創造性のある人財を育てていく必要があります。
毎朝、同じ時間に出社し、同じ仕事を同じやり方できちんとする。それもとても大事なこと。ですが、それだけでなく、「こんなやり方をしたらどうだろう?」「前工程、後工程の人とも意見をぶつけ合いながら新しいものを生み出そう」と創意工夫しながら自分のアイデアを形にしていければ、モノづくりの本当の楽しさ、達成感を味わうことができます。そういった創造性豊かでチャレンジ精神に溢れる人財を育てるためにも、健康経営により一層力を入れていきたいと考えています。
【取材後記】
「『人となり』という言葉があるように、健康経営には『会社となり』が出てくる。一つ一つのことに手を抜かず、愚直に取り組んでいきたい」と話す成戸社長。その姿に誠実なお人柄とともに、モノづくりへの熱い情熱を感じました。特に印象的だったのが、健康経営は中小企業のモノづくりの現場においても、組織の活性化、人財育成、顧客開拓などに有効であり、自動車業界の100年に一度の大変革期という大きなテーマにも立ち向かっていける力になるということ。三恵シーアンドシーさんは、匠の技を継承するとともに、これまでとは違った新しいモノづくりの手法を創造していってくれることでしょう。
<企業データ>
会社名:株式会社三恵シーアンドシー
事業内容:治具・専用機メーカー
所在地:〒474-0011 愛知県大府市横根町茨狭間7-87
資本金:8,000万円
社員数:93名(2021年8月時点)