シリーズ:【健康経営はじめました】優良法人に見事、認定。だがゴールではなく、人財を守り、持続可能な成長を目指す(大同硝子興業③)
大同硝子興業さんへのシリーズ3回目のインタビュー。前回は、健康経営優良法人認定の申請から1か月後にお話を伺い、申請に向けての取り組みや社内変化をお伝えしました。今回は取材場所を本社から京都工場に移し、優良法人認定の結果をもとに現在の課題や次なる目標をお聞きしていきます。(インタビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役 熊倉 利和)
■鈴木聡さん(代表取締役社長)
■高松さん(総務部主任)
目次
1.初めての申請で健康経営優良法人に認定
――見事、健康経営優良法人に認定されたと伺いました。おめでとうございます!
鈴木社長:ありがとうございます。先日、内定の連絡があり、無事に認定を受けることができました。健康経営優良法人認定は健康経営を始めてからのひとつの目標でしたので一安心です。
――今回の認定について会社のみなさんにはもう報告されましたか?
鈴木社長:はい。もちろんです。
高松さん :報告後、「すごい! おめでとう」と社内のみんなから温かい言葉をたくさんかけてもらい感激しました。健康経営の担当者として、健康診断の受診依頼や再診の声かけなどを積極的に行ってきたので、私の活動を知っている従業員は特に喜んでくれ、苦労が報われた思いです。
――従業員のみなさんも応援してくださっていたのですね。申請から優良法人認定内定の連絡があるまで、不安はありましたか?
高松さん:はい、正直ありましたね。確実に認定が受けられるよう、「申請内容記載表」のシートをチェックしながら準備を行うなどやれることはやったつもりです。しかし、今回の申請は弊社としても、私個人としても初めての経験だったので、漠然とした不安を感じていました。ですので、認定の報告を受けた時はほっとしました。
鈴木社長 :高松が本当によくやってくれ、その頑張りには頭が下がる思いです。ただ、前回のインタビューでお話したように、私たちは認定を目的に健康経営を行っている訳ではありません。認定内定前から、健康経営による従業員の行動や心境に変化が見られていたので、健康経営の価値はすでに感じていました。
――なるほど。認定前から健康経営の価値を実感されていたのですね。
鈴木社長:そうですね、例えば、健康診断の受診率が飛躍的に上がり、毎年数名は病気の早期発見や健康上の問題点を指摘していただいています。「健康診断なんて受けない」と言っていた従業員も「会社がそういう取り組みをしているんだったら」と言い、今年は受診してくれました。
また、今年の健康診断では初めて検診車を会社に呼んだんです。従業員たちは「こういうふうにやるんだね」と興味を持って写真を撮るなど和やかな雰囲気で参加してくれ、新しい取り組みを全員で楽しみながら行えていることも非常に嬉しく思っています。
2.従業員をサポートすることこそが社長の役割
――今回、高松さんは未経験ながら健康経営推進担当として認定申請をされました。活動を進めるなかでどのような苦労がありましたか?
高松さん:当初は、健康経営優良法人認定そのものの知識も乏しかったので、何から手をつければよいのかわからず非常に苦労しました。そこで、すでに認定を取得されている企業様にインタビューを行い、調査を重ねることで健康経営の理解を深めていきました。
業務の範囲が広がり大変なこともありましたが、健康経営をゼロから立ち上げた経験は自分自身の成長に大きく寄与したと感じますし、「認定を受けられた」という経験は今後のキャリアにおいても自信となり、さらなる挑戦の原動力となっています!
――他社さんへのインタビューまでするとはすごい。素晴らしいです。
健康経営を導入する際、従業員のなかで不満やネガティブな反応はありませんでしたか?
高松さん:そうですね、健康経営の導入について特に反発や不満の声はありませんでした。有り難いことに、みなさん素直に受け入れてくれたと思います。
鈴木社長:そうだったね。健康経営は従業員の健康を促進し、やりがいを持って働ける環境を整えることが目的。これに対してネガティブな要素はないと思いますし、会社としてもリスクや不安を感じることはありませんでした。
――健康経営を始めて、従業員の行動や心境に変化が見られたとお聞きしました。さらに詳しくお聞かせ願えますか?
高松さん:はい。パート従業員も健康診断を受けられるようになったことで、パートナーの扶養範囲内で働いている人でも「会社で健康診断を推奨しているから」とこれまで経験のなかった胃カメラや女性特有の健診を受けてくれました。健康に対する意識が高まったと感じています。
鈴木社長:女性従業員のなかには10年ぶりに健康診断を受けた人もいて、その事実に非常に驚きました。 特に主婦層のパート従業員は長らく健康診断を受けていなかった人も多く、もっと早く気づいてあげられたらよかったと反省しています。
――そうお考えになる鈴木社長の経営者としての根本にあるものは何ですか?
鈴木社長:従業員の家族構成に関わらず、自分自身の健康を大切にする気持ちが一人ひとりの中で大きくなって欲しいという思いで行動を続けています。健康上の不安を抱えたまま仕事をすれば、パフォーマンスも低下してしまいます。会社の経営が維持できるのは従業員の健康あってこそですから。
――揺るぎない信念を持っていて素敵です。今回の健康診断の受診率や従業員の行動変容は健康経営に対する自信につながったのではないでしょうか?
鈴木社長:そうですね。すべての従業員が会社の意図を完全に理解しているわけではないかもしれませんが、理解しようと努力し、積極的に健康経営をみんなで協力して推進しようとする姿勢が見られるようになったのは大きな成果だと思います。
また、現在弊社は従業員数が徐々に減少しており、その結果、一人ひとりの業務負担が増えています。私自身は専門的な知識を持っているわけではありません。各部署の従業員がそれぞれの専門性を発揮し働いてくれるお陰で、会社は成り立っています。だからこそ、私は従業員をサポートすることこそが自分の役割であり、会社の責任だと捉えています。健康経営は、その考えに非常に合致していると実感しているところです。
3.「くるみん認定」で子育てサポート企業をアピール
――今後、どのような取り組みをお考えですか?
鈴木社長:そうですね。弊社は喫煙率がまだ高いので、そこにアプローチはしたいと考えています。また、前回のインタビューでもお話したストレスチェックを本格的に導入し、対象者には自治体の専門家との面談も予定しています。法律的に言えば、規模的に弊社はストレスチェックの義務対象ではありません。しかし、従業員には身体的にも精神的にも健康でいて欲しいという想いから実施を決めました。
――すでに、具体的な計画を立てられているのですね。そのほかに、実施したいと考えている取り組みはありますか?
鈴木社長:高松が健康経営優良法人の認定を個人目標に掲げてきたように、ほかの従業員にも会社の求める方向性に対して、個人レベルで意欲的に取り組む姿勢が広がってきました。これまで約5年間、健康経営の推進を続けるなかで次の目標を見据え、どう行動するかを考える姿勢が根付いてきたように思います。
今後はエンゲージメントをさらに向上させ、従業員が長く働ける職場環境を創ることに力を入れていきたいです。従業員一人ひとりが仕事を通じて成長し、やりがいを感じられる職場づくりを進めることで、会社全体の成長と持続可能な働き方を実現したいですね。
――健康経営優良法人以外に、今後取得を目指しているものはありますか?
鈴木社長:はい。もうひとつの目標として厚生労働省が推進する「くるみん認定」を取得したいと考えています。この認定は女性の活躍推進を支援するもので、弊社には多くの女性や子育て世代のパート従業員が在籍しているので「子育てサポート企業」としての体制を整え、福利厚生の充実や人財採用に向けてのアピールを強化したいと思っています。
ただ、今回も認定自体が目的ではなく、そのプロセスが会社全体によい影響を与えることを期待しています。認定に取り組む過程で、従業員一人ひとりがその意義を理解し、新しいルールや文化が生まれ、結果的に認定を得ることができれば、会社全体の成長につながると信じています。
――個人レベルで取り組みが広がっているのは素晴らしいですね。おっしゃるとおり、エンゲージメント向上や職場環境の整備に向けた具体的な行動が社員の成長や会社全体の発展につながっていきます。
4.健康経営をやらない理由はない
――健康経営のメリットは理解できるものの、実行は難しく、手間がかかると感じて二の足を踏んでいる経営者に対してどのようなアドバイスをされますか?
鈴木社長:「やった方がいいですよ」と自信を持って背中を押したいですね。健康経営に取り組むことによるデメリットは見当たらないですし、やらない理由はないと思います。強いて言うならば、ちゃんと活用できるかどうかが焦点だと思います。
健康経営を「認定を取得することが目的」としてしまうと従業員のモチベーションは持続せず、新たに生れた文化も定着しません。今は人財確保が非常に重要な時代ですから、現在の従業員を守るためにも健康経営は会社を上げて取り組むべきことのひとつです。
――コストを心配する経営者もいますね。
鈴木社長:お金に関しては、「実際にはそれほどかかっていない」というのが私たちの実感です。たとえば、健康診断の費用はありますが、それ以外に大きなコストはかかりませんでした。「会社が従業員の健康をしっかり考えている」と感じてもらえることは大きな成果ですし、今回の投資は十分価値があったと思っています。
どれだけ受注を受けたとしても、離職が増えてしまえば会社は成り立ちません。採用が簡単ではない今、リスクマネジメントをきちんと行い、健康経営を通じて人財を大切にし、彼らが十分なパフォーマンスを発揮できる環境を整えることが利益を守り、会社の生き残りにつながるのは明白です。
また、成果がすぐに見えなくても取り組む価値はあります。今回の経験を通じて健康経営は長期的な視点で見るべきものであり、従業員のエンゲージメントを高め、会社を信頼し続けるための基盤となると実感しました。すぐに数字で現れるような結果が出なかったとしても、健康経営を進めることに意義があると確信しています。
【取材後記】
3回に渡りお届けしてきた大同硝子興業さんの『健康経営はじめました』シリーズ。様々なご苦労を乗り越えながら認定に至ったことに取材者としても大変感動しました。担当者の高松さんの真摯な姿勢、そして「従業員の健康が会社の成長を支える」という鈴木社長の信念こそがこの結果に結びついたのだと思います。健康経営に興味はあるが、大変そうだと二の足を踏んでいる企業のみなさんにも「やる価値はある」と確信してもらえる取材になったと思います。今後も健康経営に挑戦しようとする企業のみなさんの取材を続けていきます。
〈企業データ〉
会社名:大同硝子興業株式会社
事業内容:プラスチック製品の射出成形、中空成形、真空成形、2次加工など
所在地:〒530-0047 大阪府大阪市北区西天満2丁目6番8号 堂島ビルヂング3F
資本金:90,000千円
従業員数:61人