【シリーズ:広報担当に聞く】唯一無二の特許技術と健康経営を外部に発信し、企業ブランディングに成功(アップコン)
コンクリート床の補修に関する唯一無二の技術を持つアップコンさんは、健康経営のパイオニアとしても知られていますが、広報に力を入れることで会社のブランディングや人材採用などにも成功。今回は松藤社長と広報担当の龍野さんに聞きました。(インタビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役 熊倉 利和)
〔アップコン株式会社〕
松藤展和さん(代表取締役社長)
龍野陽美さん(経営推進部 経営企画広報担当グループリーダー)
目次
1.床補修の歴史を変える革新的な技術
――まずはアップコンさんについて教えてください。
松藤社長:アップコンは2003年6月に設立された会社で神奈川県川崎市に本社を構えています。建設業ではありますが、建物を立てたりするのではなく、特殊な工法による維持・補修業務を行なっています。
例えば、軟弱地盤や地震などの影響で沈下したり、段差ができてしまったりしたコンクリート床の下に硬質発泡ウレタン樹脂を注入し、ウレタン樹脂の膨らむ力(発泡圧力)によって床を押し上げ、フラットな状態に戻す施工を行っています。
お客様は民間と公共に分かれており、民間は工場や店舗、住宅などで、東日本大震災による液状化で傾いた千葉県の住宅の補修も行いました。公共は、道路、空港、港湾、学校の教室や体育館など。最近は公共工事の割合が増えており、全体の3~4割くらいになっています。
これらの施工とともにもう一つの事業の柱になっているのが研究開発。その一つが農水路トンネル関連。全国に2,000kmある農水路トンネルをウレタンを使って維持・補修する工法開発をしています。
従業員は現在45名。2022年12月26日に、名古屋証券取引所のネクスト市場に上場しました。
――アップコン工法は特許も取っていますね。どのような点が他の工法と違いますか?
松藤社長:これまで工場、倉庫、店舗などの床が沈下したり、撓んでしまった場合、新たにコンクリートで作り直す(打ち替え工法)やコンクリートの上にコンクリートを乗せてフラットにする(増しコン・増し打ち)を採用することが多く、ウレタンを使う工法はありませんでした。
――ウレタンを使った工法によるメリットは?
松藤社長:一番はスピードです。従来工法(コンクリートの打ち替え工法)に比べると10分の1の時間で床を補修できます。
――そうなると工場、倉庫、店舗の操業や営業への影響も最小限に抑えることができますし、メリットがとても多いですね。
松藤社長:はい。ただ、一度ご利用いただいたお客様はリピーターになってくれますが、新しい工法だけに一般的にはまだまだ知られていません。ですから当社にとって、広報がとても重要になります。
2.全国展開を見据え広報に力を入れる
――いつ頃から広報に重きを置くようになったのですか?
松藤社長:最初に広報担当者を置いたのは、会社設立の翌年(2004年)5月。その時、アップコンは私も含め10人もいませんでした。普通でしたら、仕事柄、技術者を増やすのでしょうが、当時から情報発信の重要性を感じていましたので広報担当者を採用しました。
と言うのも、本社がある川崎周辺だけでしたらお客様も限られてしまい、会社を大きくすることはできません。インターネットも活用しながら全国的に事業を展開していきたいと考え、広報やマーケティングを重視した経営を行ってきました。
――現在、広報はどのような形で組織に組み込まれていますか?
松藤社長:広報は経営企画課の中にあり、経営企画課は現在3名が所属しています。経営企画課の3人は仕事内容が若干違っていて、龍野は広報として前面に立つ立場です。
龍野さん:そうですね。経営企画課はプロモーション、広報、宣伝が一緒になった課となります。
――ところで龍野さんはアップコンさんのどこに魅力を感じて入社されたのですか?
龍野さん:私は6年前にアップコンに入社したのですが、その前は外資系企業でプロダクトマネージャーを務めていました。その企業の前に宣伝を10年、広報を10年経験していますが、やはり私がやりたいのは広報やセールスプロモーションだと思うようになっていました。
そういった想いで転職を考えていた時に知ったのがアップコン。アップコンは発展途上の企業。自分の経験を活かしながら、会社を成長させることに貢献したいという気持ちでアップコンにエントリーさせてもらいました。
3.メディアと関係性を築き、社内のハブとなる
――入社後、龍野さんはどのようなお仕事をされてきましたか?
龍野さん:私が入社したのは、ちょうどアップコンがリブランディングをしたすぐ後。ですから、リブランディング後のカタログなどの印刷物、セールスツール制作にほぼゼロベースから関わることができました。
それと、それまで積極的に取り組まれていなかったPRやメディア・リレーションにも力を入れ、セールスプロモーション、イベントなどと紐づけて広報活動をしてきました。より効果的なリブラインディングをするための取り組みです。
――中小企業ですとメディアと関係性を築けている企業は少ないですよね。
龍野さん:そうなのかもしれませんね。入社した当初まず手がけたのは、建設系を含め、アップコンに最適なメディア選定から始めました。その際、アピールポイントとなるのが、やはりアップコンのウレタンによる工法。他社が手がけていない、唯一無二の当社の技術は、ニュースのリソースとしても価値があると自負しています。アップコンが農業用水路の維持・補修の事業を立ち上げた時期に、国交省がインフラの長寿命化、強靭化計画を打ち出していたことも追い風となりました。
建築系では一番発行部数が多い雑誌編集長をご紹介いただき、当社の技術を説明に伺ったこともあります。その結果、表紙と巻頭特集を組んでいただけ、それが私のアップコンでの最初の成功体験です。
――それは素晴らしい。大変だったことはありますか?
龍野さん:違う業界から入ってきて不慣れな私に対し、社長も辛抱強く付き合ってくださいました(笑)。私自身、アップコンの理解が足りていなかったので、カタログを制作するにしても営業の人に聞きに行かないといけないなど勉強することがたくさんありました。
――広報担当者にとって大切なことの一つが他部署との連携。商品や財務などそれぞれの専門的な知識を理解した上で、一般の人にもわかるように翻訳してメディアに伝えることが求められますし、社内のハブにならないといけない。
龍野さん:おっしゃる通りです。私の場合は、社内のそれぞれの専門職や営業、社長と外部とを繋げる役割です。
――メディアでの記事掲載や展示会への出展でも、売りたいものをアピールすることができるので、営業としてもメリットが大きいですね。
松藤社長:はい。毎年度、営業はどうやって自分の売上を上げるのか計画を立てます。例えば、公共工事をもっと受注したいというのであれば、それをどうやって具現化するのか。DMを送るのか、展示会を開くのか、広告を出すのかなど様々な方法があります。そうした場合、営業が一番密に打ち合わせするのが経営企画です。営業や広報、経営企画などがミーティングを重ね、中長期計画を立て、予算と照らし合わせながら一つずつ実行していくというスタイルです。
――広報は経理とも連携しているとのことですが?
龍野さん:はい。展示会にしろ、制作物にしろ、セールスプロモーションには費用がかかります。
松藤社長:経理はその費用対効果を確認します。実施したセールスプロモーションによってどれくらいの成果が上がったかしっかり分析し、それが「来年はもっとやろう」「いや、撤退しよう」という判断材料になります。
――なるほど。成果が出ているかジャッジできる体制もできているのですね。そういう体制はいつ頃からできましたか?
松藤社長:中長期計画を立てながら役割分担がしっかりできるようになったのは、この数年のこと。2021年、上場をしましたが、上場するためには予実管理(企業の予算と実績を管理すること)が必要であり体制も整いました。
以前はデータがとれていなかったのですが、近年では、展示会でかかった費用に対して、「来場者がどれくらいだったか?」「名刺交換できた人数は?」「どれくらい受注に繋がったか?」といったことをデータ化することで「この展示会の出展はやめよう」「この展示会ではブースをもっと広くしよう」と次の戦略が立てやすくなっています。
――そういう体制ができ、広報としても仕事がしやすい?
龍野さん:そうですね。アップコンでは情報がとても取りやすい環境があります。例えば、月に一回、全員が集まる会議があるのですが、その場で今、会社でどんなことが起きているかが大体わかります。そのため、広報としても次に焦点を当てるテーマはこれかなといったことも見えてきます。
4.健康経営を外部に発信し、採用にも好影響
――広報に力を入れることによって採用にも良い影響が出ているのでは?
龍野さん:はい。採用については松藤もずっと言ってきているように、健康経営がとても役立っています。広報としても、健康経営は最重要な部分。例えば、認定や表彰を受けたことをリリースすると、取材依頼がきます。2021年には一般紙でも当社の健康経営について記事を掲載していただきました。それらは採用にも好影響を与えますので、自社の採用担当者からも高い評価をもらっています。
――龍野さんの時の中途採用では相当な競争率だったとのこと。新卒採用についてはどうですか?
松藤社長:当社の場合、中途採用はポジションに空きができた場合に行っており、新卒採用がメインです。新卒採用について言えば、この数年、2倍、3倍というペースで応募者が増えるとともに、質も高くなっています。これは嬉しい悲鳴なのですが、たくさんの方に応募していただけるので、4月、5月はほとんど面接で私の時間がとられてしまう状態。ですから募集のやり方を変える必要が出てくるかもしれません。
――インターンについては?
松藤社長:今は大学2~3年生の方に、1日から1週間程度の期間でインターンに来てもらい、会社の業務内容とともに健康経営についても紹介しています。
龍野さん:そうですね。採用のサイトやリーフレットなどでも健康経営については情報を発信していきたいと考えています。
5.広報の力が増せば会社が大きくなる
――先ほど健康経営は人財募集でも良い影響が出るとおっしゃっていました。新規受注や売上アップなどにも繋がりますか?
龍野さん:それを望んでいます。有り難いことに当社の健康経営の取り組みは、経産省さんや厚労省さんにも認知いただけているようです。各省庁には担当の記者さんがいますし、NHKさんなどのメディアでも当社のことをご紹介いただける機会が増えています。メディア露出が増えれば、知名度、信頼度が高まり、会社のブランディングとなりますし、それが営業でも少なからず影響してきます。
松藤社長:つまり、メディアに取り上げていただくことで信頼性も上がりますし認知度の向上にもなっています。
――それはいいですね。元々アップコン工法など御社の優れた技術を広く知ってもらいたいということで広報担当を置き、技術とともに健康経営も外部に発信することで様々な面で成果が出ているのですね。
松藤社長:広報の力が増せば、会社も大きくなります。そういう意味で今の3人体制では足りないかもしれません。
――御社の場合、広報が人事と協力し採用で成果を出したり、セールスプロモーションの費用対効果を経理がチェックするようになっており、経営戦略を実現させるための広報、つまり戦略広報が形になっています。今後はどのようなことに取り組んでいきますか?
龍野さん:私がこの仕事を始めた頃に比べ、セールスプロモーション自体がとても多様化し、全体的にデジタルにシフトしています。その状況に追いついていくため、弊社でもWebマーケティングに力を入れています。それとともに、内部の体制もさらにしっかり構築し、会社を大きくしていくことに貢献したいと思っています。
【取材後記】
その革新的な技術で数多くの工場や店舗、住宅などの沈下修正という維持管理に携わり、公共事業でも大きな貢献をしているアップコンさん。費用をかけずに効果を出す健康経営についても多くのメディアで取り上げられる存在です。そんなアップコンさんが、外部への情報発信や他部署と協力して行う戦略広報によって確かな成果を上げていることに深く感心させられました。健康経営にいち早く取り組んできたパイオニアであるアップコンさん。常に時代の先を走っています。
<企業データ>
会社名:アップコン株式会社
事業内容:土木工事業 及び 建築工事業(コンクリート床スラブ沈下修正工法「アップコン」による施工・施工管理/ウレタン製土壌改良材「ナテルン」による施工・施工管理及び「ナテルン」の販売/農業用水路トンネル機能回復加圧式ウレタン充填工法「FRT工法」による施工・施工管理/ウレタンを使った新技術の研究・開発)
所在地:〒213-0012 神奈川県川崎市高津区坂戸3-2-1 KSP東棟611
資本金:1億188万円
社員数:45名