【シリーズ:健康経営優良法人インタビュー】〔健康経営編〕斬新な発想で、社員を守り抜く健康経営を次々に実行(株式会社松原組)

広島県福山市に拠点を置く松原組。1952年の創業以降、地域密着型の総合建設会社として発展してきました。そして今、「地域の人たちを喜ばせる」という視点で新規事業を次々に展開することで、どんな逆風にも負けない会社づくりに取り組まれています。そこには、「社員と会社と地域を、とことん守り抜く」という社長の強い思いがありました。そうした社長の思いは、各事業所に高濃度酸素ルームを置くなど、固定概念にとらわれない健康経営の斬新な方法として、次々に実現されています。(インタビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表 熊倉利和)

〔株式会社松原組〕

松原宏林さん(代表取締役)

大本英与さん(総務部)

梶原理子さん(総務部)

1.社員や地域のために「守り」を重視

――まずは、松原組さんの事業内容と経営理念を教えてください。

松原:松原組の事業内容を一言でいえば、地域に密着した総合建設業です。1952年に創業して以降、広島県福山市に根差し、公共工事、土木工事、製鉄関連事業などを請け負ってきました。

大本:経営理念は「夢を画き未来を想像する 地域社会の発展とともに 人びとのより豊かな生活を求めて」です。これを朝礼のときに、社員一同、唱和します。

――地域密着型の建設会社である松原組さんならではの経営理念ですね。

大本:そうですね。建設業は、人が住む場所でなければ成り立たない事業です。たくさんの人が「住みたい」「遊びに行きたい」と感じる街を築いていければ、地域のみなさんが豊かに幸せに暮らしていけますし、私たちも仕事を創造していくことができます。

――すばらしいですね。この応接室には「把手共行」という書が飾ってあります。あれは何と読むのですか。

松原:「はしゅきょうこう」です。社内外の多くの人と手を把(にぎ)りあい、常に万全の努力を行って、1つ1つの課題をクリアしながら、将来に向けての礎を築き上げていこう、という意味です。これがわが社の社是となっています。

松原組はまじめさが取り柄の会社です。常にまじめに仕事に打ち込むことで、地域にも取引企業の皆様にも、長く愛される会社であり続けたいと考えています。

――まじめさを強みに、地域の方々に長く愛され続ける企業とは、素敵ですね。社長が社員に期待されていることは、どんなことでしょう。

松原:みんなで楽しく笑いあって、充実感をわかちあっていこう。そのためには、それぞれが与えられた役割をこなしていこう。と、こんなことをよくいっていますね。

――家庭的な雰囲気なのですね。社員数は現在約260人とのことですが、この人数で、明るく楽しい家庭的な経営を貫かれているのには頭が下がります。

松原:先代の時代と比べて、ずいぶんと社員数は増えました。

大本:私が松原組に入社したのが6年前ですが、そのころで170人くらいでした。約90人増えていることになりますね。

――それは、松原組の事業が拡大している、ということですか。

大本:ええ。松原組だけでも20~30人は増加したのですが、他の事業も拡大していて、そちらの社員も増えています。松原組は現在、ファーストクリエートという親会社のグループ企業の1つという位置づけになっています。ファーストクリエートとは、「福山のファースト(一番)をクリエート(創造)する」という意味です。この親会社の子会社として、建設業である松原組、飲食業などのフランチャイズ事業を運営するA.E.U.G.(エゥーゴ)、福祉事業を運営するスマイルクリエート、石油などの燃料を販売する一般社団法人R.E.E.G.(リーグ)、ヘルスケアやエンターテイメントの事業を行う百式という5社があります。すべてのグループをあわせて、社員数が約260名になっています。

――建設業に加えて、さまざまな事業に取り組まれているのですね。

松原:そうなんです。私は松原組の3代目になりますが、先代から後を継いで社長となったときに、研修会に行かされました。そのときの講師に「利益の8~9割を1つの事業に頼っていると、倒産のリスクが高くなる」と指摘されました。「せめて、売り上げが3分の1ぐらいずつになるよう、他の事業も展開していったほうがいい」と。そのアドバイスを受け止め、建設業以外の事業も展開していくことにしたのです。代替わりして10年以上が過ぎ、現在、全6社のグループ企業に成長しました。

――着実に、新しい種を蒔き、会社を発展させ続けているわけですね。

松原:いやぁ、私は臆病で怖がりなんです。松原組は創立して71年、建設業としては1本の太い柱を築き上げてきました。そのぶん、柱が倒れることが起こると、みんなで大変な思いをします。これでは従業員を守れません。私自身には「経営拡大していこう!」という攻めの意識はないんですよ。会社と社員を守っていくために必死になって新規事業に取り組んでいるところです。

――松原社長は「守り」とおっしゃいますが、新しい事業は社長が関心を持って取り組まれているわけですよね。

松原:もちろんです。松原組の地元の福山市は田舎ですから、福山市にないような面白い事業を始めると、住民の方々も喜んでくれます。また、大本が先ほど話していたように、よそからも遊びに来て、「ここに住みたい」と思ってくれるかもしれません。そうであってほしいと事業展開しています。それが地域を発展させ、ゆくゆくは松原組の仕事の増加につながっていくと考えています。

――十分に攻めているではありませんか。

松原:必死で守っているんです(笑)。

――つまりこういうことですね。松原組の歴史を守り、社員の生活を守っていくためには、新しいことをやっていかなければいけない。社員のほうも、社長が「これからどんどん攻めていくぞ!」といえば、「新しいことをやらされる」と警戒しますが、「みんなの豊かで楽しい生活を守っていくよ」といわれれば、「がんばろう」と思いますよね。松原社長、さすがだなぁ。

松原:そんなに考えた末のことではないですよ。ただ、確かに「攻めていくぞ」といわれれば、社員が警戒するかもしれませんね。でも、私は純粋に守りに徹しているだけです。

大本:社員は誰も「社長が守りの姿勢でいる」とは思っていないですよ(笑)。社長の動きは、本当に速いんです。1つの事業を立ち上げている最中に、もう次のことを考え始めている。私たち社員は、永遠と社長を追いかけているようなイメージです。そのぶん、社員を信頼して新たな事業を任せてくれるので、やりがいもありますし、楽しくもあります。

2.社員の未来まで見据えた健康経営を実行

――では、健康経営についてお尋ねします。松原組さんでは健康宣言をされ、優良法人にも認定されています。健康経営に取り組み始めたきっかけはどんなことだったのですか。

梶原:お世話になっている保険会社さんに「健康経営に取り組まれてはどうですか」とお話をいただき、興味を持ったのがきっかけでした。

松原:大本と梶原は総務部で採用を担当していますが、大本は新規事業である幼児教育事業の運営に携わり、梶原は健康経営を中心になって取り組んでくれています。

――それはすばらしい。大本さんが担当されている幼児教育事業についても興味がありますが、まずは健康経営についてお話を聞かせてください。松原組さんは、福利厚生を手厚くされていますから、申請の調査書を作成したときに、健康経営優良法人認定は取得できるだろうという自信はあったのではないですか。

梶原:そうですね。保険会社の担当者さんも「自信を持って申請して大丈夫」といわれていました。私自身、申請を準備していくなかで、「当社は、社員のことをこんなにも大切にしてくれている」と再認識するほどでした。現在は3年目の申請に向けて取り組んでいるところです。

――社員さんにそんなふうに思われるとは、幸せですね。

松原:ありがとうございます。実は現在、彼女の提案で、社内保育園を設立する計画が進んでいるところです。

梶原:健康経営の実行や社内保育園の設立によって、従業員の福利厚生はもちろん、求職者の方々に「安心して働ける企業」と認識していただけると思っています。私自身、子育て真っ最中でして、育児と仕事の両立の大変さを理解しているつもりです。社内保育園を設立し、心から信頼できる保育士さんを採用できたら、松原組や関連グループで働く女性たちは安心して仕事に取り組めますし、不安なく妊娠・出産に望めるはずです。

――現在のことに加えて、社員の未来まで見据えて健康経営をされている。松原組独自の健康経営の取り組みは、まだまだありそうですね。

松原:そうですね。たとえば現在、社員の食育に力を入れています。健康増進には食が重要です。そこで、講師を招いて食育セミナーを開催したり、無農薬の米作りを予定したりしています(〔食育編〕を参照)。

また、高濃度酸素ルームを会社に設置しているのも、めずらしいことかもしれません。これも社員の健康増進に役立つと考えてのことです。高濃度酸素ルームに入ることで、多くの酸素を体内に送り込むことができます。ストレス緩和、疲労回復、血行促進、免疫機能の適正化、また美容などの効果が期待できるとされています。当社に設置した高濃度酸素ルームは、1人用ではなく、数人が同時に入れるタイプです。社員はこれを自由に使うことができます。

大本:高濃度酸素ルームが置かれているのは、松原組の本社だけではないんですよ。松原組すべての支店、また、新規事業の幼児教室7店舗のうち6店舗にも設置しています。運営しているゴルフ練習場や障害者就労支援の事業所にも置いてあります。1か所にしかなければ争奪戦にもなりかねませんが、それぞれの職場にあるので社員みんながゆったりとした気持ちで使用できています。

――それはすごい! ブライト500を取得している会社でも、そこまで行っている企業はなかなかありません。

松原:さらに福利厚生ということでは、昨年の11月から出産祝い金の支給を始めています。1人目は100万円、2人目は200万円、3人目以降は300万円を、手取りで贈ることにしました。松原組流の子育て支援です。日本の少子化は深刻な状態ですが、松原組としても会社みんなで協力して子どもを増やしていこうよ、という思いで取り組んでいます。

また、今年から専属の看護師さんが入社してくれ、社員たちの健康管理をしてくれています。今後は、この看護師さんと相談しながら、ヘルスケア事業も展開していこうと予定しています。

――あまりにスケールの大きな健康経営になってきて、驚くばかりです。これほどのことを実践されているならば、ブライト500の認定はもう見えていますね。今年はもちろんブライト500を目指されるのですか?

梶原:はい、その予定です。ブライト500認定の取得は難しいと聞いていたため、昨年までは申請していませんでした。しかし、健康経営において多くのことが整ってきていますから、今年は目指していきたいと考えています。

3.新規事業によって採用活動も有利に

――先ほど、大本さんは採用の仕事と、新規事業である幼児教育のほうも兼務している、というお話でした。建設業と幼児教育は、だいぶかけ離れていますが、店舗をつくるなど、本業につなげるために参入したのですか?

松原:いいえ、建設業とは関係なく、日本の未来を見据えての参入です。少子化問題には私自身、大変な危機意識を持っています。子どもが減っている今だからこそ、1人ひとりの可能性をおおいに引き出し、地域に貢献する人物を増やしていきたいと取り組んでいます。また、大本は児童発達支援の事業も担当しています。現在、発達障害と診断される子どもが増えていますが、早期に必要な教育を受けることで、小学校に入ったとき、本人が困らず、クラスに順応できるようになります。そうした手伝いもしたいと思っています。

――社長の思いがたっぷり詰まった事業ですね。

大本:本当にそうなんです。実際、私が事業担当するときにも、社長のその思いを聞いてスタートしています。これからの子どもたちがもっと上の環境を目指せるよう、力を発揮できる能力を育んでほしいというのが、社長の思いです。経営としても順調です。1店舗からスタートし、現在は6店舗になりました。今後さらに増やしていこうと計画しています。売り上げも700万円から10倍以上の1億円に増えました。

松原:これらの教室には、福利厚生の一環として、社員の子どもさんが通えるようになっているんですよ。今、20~30人は通っているはずです。

――話のスケールがますます大きくなってきました。

松原:スケールの大きな話でいえば、映画事業にも取り組み始めました。先日は映画制作にあたってのオーディションの審査員を務めました。人気女優さんが出演する映画を招致し、福山でロケも行われました。映画のロケ地に地元がなれば、地域の人も喜んでくれると思います。この映画が公開され、ロケ地巡りといって大勢の人が福山を訪ねてきてくれることも期待しています。

――すごい! 松原社長のその広い人脈は、どのようにつくられているのですか。

松原:運がいいだけです。運を大切にしていると、人と人とがつながっていくようです。

大本:社長はこんなふうにいいますが、実現に向けてまっすぐに動く人です。専門家を尋ねていって話をよく聞きますし、情報収集にも熱心です。私たちが知らないようなことを社長は熟知していて、惜しみなく教えてくれます。

――松原社長と大本さん、梶原さんの話を聞いていると、社長は社員を大切に思っていますし、社員のほうも社長を心から信頼している。傍から見ていてうらやましいほどです。そして会社全体で福山エリアが発展していくよう事業展開をされていて、社長、社員、会社、地域が共存共栄の関係にあることが、とてもよくわかります。

松原:そんなふうにとらえていただけると、うれしいですね。実際、事業のバランスはよくなっていると思います。1つの事業に偏っている形ではなくなりました。

大本:それによって、採用もしやすくなりました。建設業のみでは女性の採用がなかなか難しかったのですが、今では採用の際に「どんなことをやってみたいですか?」と尋ねることも、「あなたはこの学部出身だから、こういう仕事が適していそうですね」と就活中の方々の思いに幅広く応えることも、可能になりました。しかも社長が、福利厚生を整え、給料体系もどんどん改善してくれるので、自信を持って当社への就職を勧められます。

松原:事業の柱がいくつもできたことで、社員の層も厚くなりました。女性社員も増えましたし、年齢層も幅広くなっています。

――今後も次々と新しい事業に取り組まれるのでしょうね。どんなおもしろいことを始められるのかと思うとワクワクして、興味がつきません。

松原:いえいえ、そんなたいしたことではありません。私はただただ社員も会社も地域も守っていきたいだけなんです(笑)。

【取材後記】

松原組では、高濃度酸素ルームを各事業所に設置し、食育セミナーを開催し、専属看護師を採用し、高額の出産祝い金を支給するなど、他では見られない斬新かつスケールの大きな健康経営を実行されていました。「なぜ、これほど手厚い健康経営を行えるのか」という問いの答えはただ1つ。「社員の健康と幸せな生活を守っていきたい」との社長の強い思いです。「守りは最大の攻撃」といいますが、社員をとことん守っていこうとする社長の熱い思いが、社員の方々がのびのびと能力を発揮し、会社が大きく発展していく原動力になっていると感じました。今後も、松原組がどんな興味深い健康経営を実行していくのか、目が離せません。

<企業データ>

会社名:株式会社 松原組

事業内容:総合建設事業・製鉄関連事業・スラグ関連事業

所在地:〒721-0942 広島県福山市引野町5218番地

資本金:48,000,000円

社員数:約260名

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