【ケーロッド】離職率減、人財育成、社内活性化、健康経営は会社を強くするためのツール

売上増といった直接的な利益に結びつかないと思われがちな健康経営。ですが、じっくり取り組めば、様々な効果をもたらすことを証明してくれているのが埼玉県のケーロッドさんです。代表取締役の久礼亮一さんにお話を伺いました。(インタビュアー:健康経営の広場/IKIGAI WORKS代表  熊倉 利和)

1.従業員に顔を上げてもらいたい

――まずはケーロッドさんという会社について教えていただけますか?

久礼さん:はい。ケーロッドは私が25歳の時に創業した会社です。現在は、食品輸送を中心とした物流事業と、建材輸送、取付工事、リフォームなどの建築関連事業を手掛けています。

――健康経営に取り組み始めた理由は何ですか?

久礼さん:私の夢を叶えるためにこの会社をつくりましたが、従業員と触れ合ううち、目線が下に向いている人が多いことに気づきました。それまでの人生で挫折を繰り返し、行き場をなくして運送業界の門を叩く人も少なくありません。そんな人たちに仕事を通じて光を当てたい、上を向いて人生を歩んでほしいと5年ほど前から健康経営に取り組み始めました。

――具体的にはどのような取り組みをしていますか?

久礼さん:例えば、インストラクターを招いてのストレッチ・ヨガ教室の開催。実際にストレッチやヨガをするのはもちろん、インストラクターの方と健康について話す時間も設けています。ウォーキング大会も実施。4、5人ごとにチームを組み、近隣を歩くのですが、せっかくならゴミ拾いもしようじゃないかということで、ウォーキング+清掃活動を行なっています。さらに最近ではボーリング大会、大縄跳び大会などの健康イベントも実施しました。

また、月に1度、QCサークル活動も行なっていますが、そのうち年に2回は健康に関連したものです。例えば、「良い睡眠をとるためにどうすればいいか」「食生活を改善する方法」などテーマを決めてグループごとに意見を出し合います。その中で新しい発想も生まれ、次はこんな健康イベントをやろうといった提案も出てきます。

――健康イベントでは社長の久礼さん自身はどのような関わり方をしていますか?

久礼さん:アイデアは出しますが、それをどう実現していくかについては全部、従業員に任せています。ミーティングにも出席しません。というのも、社長がいると普段通りの会話はしにくいでしょうし、何でも言える雰囲気の中で意見を出し合い、「みんなでこの会社をつくっているんだ」と一人一人に思ってもらいたいからです。

――健康経営優良法人認定の申請なども従業員が主体で行うのですか?

久礼さん:そうですね。総務が中心となり、みんなで話をしながら申請書類の作成なども行なっています。作成自体が目的ではなく、作成を通じて従業員が改めて自分自身の健康や、当社の健康経営で足りないところを考える機会になりますし、「アンケートではこんな意見が出ていますよ」「じゃあ、次はあれをやってみようか」と侃侃諤諤とみんなで取り組んでくれています。

――健康経営を推進しようとすると、どうしても上からの押し付けになりがちですが、従業員が主体となって自らの考えで進めている点が素晴らしいですね。健康イベントなどへの参加率はいかがでしょうか?

久礼さん:全員が参加しています。と言うのも、健康イベントの時間は残業扱いで給料の中に加算され、業務の一環として行なっていますから。そして、従業員がこれらの活動で学んだ健康づくりのやり方、考え方を家庭にも持ち帰ってほしい。健康づくりが点ではなく、線で結ばれ、周囲に広まっていってほしいと思っています。

2.健康イベントでリーダーを育成

――「健康は個人の問題なので会社からうるさく言われたくない」という考えの人もいますが、御社の場合、従業員の反応はどうでしたか?

久礼さん:始める前からみんなのモチベーションが高かったわけではありません。実際、1回目のイベント前日に責任者が私のところにやって来て「社長、明日のイベントに参加するのをみんな嫌がっていますよ。本当にやるんですか?」と言ってきましたが、それならば逆にやろうじゃないかと考えました。

なぜなら、健康に対する従業員の低いモチベーションをいかに上げていくかがイベントやQCサークル活動の目的でもあります。その時間を楽しいものにして、「これからも健康づくりに取り組もう」と思ってもらえるかが腕の見せ所ですから。

幸いなことにイベントはうまくいき、終了後のアンケートでは「なぜゴミ拾いまでをしないといけないのか」「仕事で体力を使った後なのになぜ運動するのか」といった不満が出てくることも覚悟していましたが、「こういう活動は会社づくりのためにも絶対必要です。またやりましょう!」といった意見が出て嬉しくなりました。

従業員自身、普段から社会や誰かの役に立ちたいという気持ちを秘めていたのではないでしょうか。それが、清掃活動や健康イベントによって表に現れたのだと思います。全員が全員ではないでしょうが、一人でも多く、そういう気持ちで活動に取り組んでくれたらいいと考えています。

それに当社は未だ発展途上。今の段階では社長主導の経営でもいいと思いますが、今後、会社を引っ張っていけるリーダーを育成しないといけません。健康イベントなどを従業員に任せるのは、人財を育てるためでもあります。仕事と違い、健康イベントはある意味、失敗してもいいですし、失敗から学び、次に活かしてもらえればいい。そうやって改善を繰り返す経験をすることは、仕事にも活かされていきます。

3.採用コストも離職率も大幅に減少

――健康経営を推進したことで何か変化はありましたか?

久礼さん:離職率も減りました。5、6年前くらいまでは毎月のように人が辞めていましたが、今は年に1人程度になっています。

――それは大きな変化ですね。人財採用についてはどうですか?

久礼さん:今、採用は求人サイトなどの媒体と自社ホームページを使っていますが、応募の割合としては半々くらい。求人を出す際に気をつけているのは、キャッチフレーズと会社の実態にギャップがあってはいけないということ。例えば、「当社は健康経営に力を入れています」といくら謳っても、実際に働き始めた時、実態と違っていては応募者の方の信頼も得られません。

――媒体を使えば多額の掲載料がかかりますが、採用の半分を自社のホームページでまかなえているのならコスト削減になりますね。

久礼さん:おっしゃる通りです。今、応募者の方は必ずホームページを見てきます。ですから、求人媒体に多額の広告費をかけるよりも、地道な健康経営の取り組みを自社ホームページで発信するほうが求職者の心に響くのではないでしょうか。

4.お客様と一緒になってルート構築

――そのほかにも健康経営によって生まれたメリットはありましたか?

久礼さん:はい。お客様との関係性も強化されました。というのも、健康経営ではいかに長時間労働をなくすかが欠かせません。そのためには、お客様のご協力も必要となりますから、ご理解いただけるお客様と繋がるようにしてきました。

今ではお客様のほうから「この配送コースですと時間がかかり、ドライバーさんの負担も大きくなってしまうのではないですか」と言ってもらえるようになっています。それに対して、「では、ルートをこう変えましょう。ここからここは高速を使いましょう」と当社としても提案できますし、有難いことにその分のコストもお客様が払ってくださっています。現在、安全性の高い配送ルートを構築でき、従業員が無理のない働き方ができるようになったのはお客様のお陰でもあります。

――お客様から無理な要求を突きつけられたり、同業他社と値下げ競争を強いられてしまったら、従業員の健康や安全を担保するのも難しくなりますよね。

久礼さん:全くその通りで、以前は「企業努力でなんとかしてくださいよ」と無理な注文をされるお客様も正直いらっしゃいました。でも、それを受けてしまったら、安全性も十分に担保できなくなる恐れが出てきます。

今のようにお客様と一緒になってルート構築などができるようになったのも、健康経営をはじめとした日々の地道な取り組みがあってのこと。「ケーロッドはここまで従業員を大事にし、しっかりとした会社運営をしているのだな。それなら、ウチも協力しようじゃないか」とお客様に思っていただけるようにしっかりとした取り組みをし、発信していくことが大切です。

5.従業員はダイヤの原石。しっかり投資をする

――運輸業は3Kという負のイメージがあります。ケーロッドさんの取組は、それを払しょくしたいという業界全体に対する想いもありますか?

久礼さん:はい。運輸や物流は社会全体を支える血液であり、国力を担うものです。物流が止まれば生活も経済も止まってしまいます。ですので、ブランディングも含め、運送業界を盛り上げ、尊敬される業種にしていきたい。当社が健康経営やSDGsなどに取り組むのもその一つです。

以前は協会や組合の集まりに参加しても、健康経営に取り組んでいるのは当社だけでした。健康経営についていくらご説明しても、「それって儲かるんですか?」という反応でした。それが最近は「健康経営は必要ですね」「ウチの会社も始めることにしました」といった声を多く聞くようになっています。

健康経営に取り組んでも、すぐには目に見える効果は出ないかもしれませんが、時間をかけ地道に続けていけば、必ず様々な効果が出てきます。

――ケーロッドさん自身は、どれくらいで健康経営の効果を実感するようになりましたか?

久礼さん: 3年くらいはかかったでしょうか。やはり最初は、従業員の健康に対する無関心や、個人中心からコミュニケーションを重視する仕事のやり方に変える意識改革、体制づくりが必要でした。

――ただ逆に言うと、その3年間がなければ、今でも毎月のように従業員が辞め、多額の経費をかけて人材を募集していたでしょう。また、従業員に無理な働き方を強いていたら安全を担保するのも難しくなっていたかもしれない。そういった意味では、ケーロッドさんは健康経営によって、数年先を見据えた投資を行なってきたことになりますね。

久礼さん:まさにそうですね。これからは、健康経営に力を入れることで年配の方でも働ける業種であることを証明していきたいと思っています。今、当社では70歳前後の方が最年長になっていますが、さらに77歳くらいまでは働ける仕事にしていきたい。そのことで、日本が抱えている少子高齢化、労働人口の減少といった問題の改善にも貢献できると思います。

また、当社の従業員のうち10%が女性です。女性ドライバーも2年前まではゼロでしたが、今は5名います。女性ドライバーが増えることで、更衣室やトイレを整え、トラック内は全面禁煙にするなど環境の整備も行なっていますが、これから女性の力がさらに必要となってくるでしょう。女性活躍推進といった言葉のない社会にしないといけないと考えています。

性別や年齢に関係なく、みんなが活躍できる仕事や職場環境がない会社は、これから生き残っていけないと感じています。

――久礼さんの経営スタンスが、従業員をコストではなく、大事な財産であるという考えをお持ちであり、それが健康経営という手法とうまくマッチしていたのではないでしょうか。

久礼さん:そう言っていただけるととても光栄です。当社の場合、光が見えてくるまでに3年かかりました。それが長いのか短いのかわかりませんが、トンネルが長ければ長いほど、結果的には息の長い会社になると思います。試行錯誤しながらも、その会社ならではの健康経営に取り組めば、最終的には自社を強くしてくれるツールになるのではないでしょうか。

【取材後記】

健康経営が生産性を高め、社会保険料などの削減に効果があるのはよく知られたところ。それに加え、離職率や人財採用のコストの大幅減、社内の一体感の醸成、リーダー育成、顧客との関係性向上、仕事の安全性向上など様々なメリットをもたらすことを証明してくれているのが、今回取材をしたケーロッドさんです。それができるのも「従業員は会社が磨き輝かせるダイヤの原石、会社の財産だからこそ、健康経営に投資を惜しまない」という考えが根底にあるからです。ケーロッドさんは、これからも業界全体の課題を解決しながら、健康経営の可能性を指し示してくれることでしょう。

<企業データ>

会社名:株式会社ケーロッド

事業内容:一般貨物自動車運送事業(食品輸送)/建設業

所在地:本社営業所:〒358-0033 入間市狭山台1丁目2-21/三芳営業所:〒354-0044 埼玉県入間郡三芳町大字北永井959-8

資本金:1000万円

従業員数:55名(令和元年 5月現在)

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