ヘルスケアIT セミナー12選⑪: 健康経営は工夫とアイデア次第 - お金をかけずともココまでできる!

ヘルスケアIT セミナー12選⑪: 健康経営は工夫とアイデア次第 - お金をかけずともココまでできる!

2019年1月に東京ビックサイトで開催された「Care Show Japan2019」。健康経営の広場独自の視点で、お勧めのセミナーをご紹介していきます。その中で、アップコン株式会社の代表取締役を務める松藤展和氏よるセミナーのタイトルは『中小企業の健康経営は費用をかけない!ここまでできるアップコン流健康経営とは』。モデレーターとして株式会社セルメスタ代表取締役の熊倉利和氏を迎えたこのセミナーは、これから健康経営に取り組もうとする中小規模の企業や健保組合とって、極めて実践的で示唆に富むものとなりました。


1.遅刻・欠勤を少なくするためにスタート

健康経営と聞くと、ICTを導入して働く人の健康情報を可視化したり、専任のスタッフを用意したりと、何かと大掛かりになり、どうしても費用や手間がかかってしまうものというイメージがあります。そのために、「ウチでも健康経営に取り組んでみたいけれど、予算や人員が限られているし、無理かな」とあきらめてしまう中小規模の企業や健保組合がいるのも事実。ですが、そんな既成概念やイメージを打ち破り、予算をかけずとも効果をあげられることを証明した中小企業あります。それが、神奈川県川崎市に本社を置くアップコン株式会社です。

アップコンの松藤代表のアイデアから始まったユニークな健康経営の取り組みは、驚くほどの成果を出すことに成功。それは、評価にも繋がり、このセミナーのちょうど前日に第3回「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」の最優秀賞(厚生労働大臣賞)の受賞の知らせが届いたばかりでした。では、どうやってアップコンは、費用をかけずに健康経営に成功しているのでしょうか。

社員数39名のアップコンは、土木工事や建築工事の施工管理をおこなっている企業です。特に地震などによる地盤沈下で沈んだり、傾いたりしたコンクリートの床を、特殊なウレタン樹脂を使って短時間で修正する新技術を持っており、工場・店舗・道路・住宅・空港などの工事で豊富な実績を誇ります。また、2018年の北海道地震で被害を受けた苫小牧校港の復旧など、社会貢献度の高いプロジェクトでもその力がいかんなく発揮されています。

そんな優良企業のアップコンですが、4、5年前まではある悩みを抱えてました。それは社員の欠勤や遅刻。病気などによって仕事を休むのは、やむを得ないこととはいえ、土木工事や建築工事はチームで動く仕事。遅刻や欠勤が与える影響がとても大きい業種です。工事ができなかったり、進捗が遅れてしまったりしては、せっかくそれまで培ってきたお客様からの厚い信頼を失いかねません。

そこでアップコンが取り組み始めたのが、健康経営です。始めるのに当たり、松藤代表が心がけたことの一つがトップダウンにならないこと。確かに中小企業の場合、トップがリーダーシップを発揮して、号令をかければ動きは速くなるし、ある程度の効果は期待できます。

しかし、トップダウンでは、2・6・2の法則(集団で何らかの活動をした場合、2割の人は率先して優秀な働きをし、6割の人はそのリーダーシップに引っ張られて働き、2割の人があまり働かない)もある通り、全員に周知徹底させるのは難しい。健康経営の取り組みにおいては、全員が主役となるものでなければ、意味がないと考えたのです。

そこで、技術部から3名、営業部から2名、管理部から1名とアップコンのすべての部から代表者を出し、プロジェクトのメンバーに就任しました。こうして、2016年2月、社員の健康を向上させるための「健活倶楽部」を発足させ、様々な取り組みをスタートしました。

2.一人当たりの年間費用はわずか1万円

まず気になるのは、アップコンが健康経営にどれくらいの費用をかけているかという点ではないでしょうか。結論から言うと、アップコンの健康経営で年間にかかった費用は、392,200円(2018年2月~)。現在、社員数は39名ですので、一人当たりにすると、わずか1万円程度に過ぎません。

では、具体的にはどのような活動に、どれほどの必要をかけているのでしょうか。内訳を見ていくことにしましょう。一番多く金額を費やしているのが「レクレーション企画・運営費」の118,000円。これは、月に1回以上実施しているレクレーションに使う金額です。

レクレーションの具体的なメニューとしては、ボルダリングやフットサル、マラソンなどの楽しみながら体力を向上させるものはもちろん、大人の塗り絵や座禅などメンタルケアにも効果的なものもあり、食事など社員の交流のための費用にも使われていると言います。

アップコンが特に力を入れているものの一つに禁煙があります。実は、2015年時点でアップコンの社員の全体の喫煙率は37%にものぼっていました。そこで、「全社員 非喫煙宣言」を打ち出し、就業時間内での喫煙を禁止するとともに、就業時間外の禁煙も奨励。2018年12月の段階では、驚くべきことに全体の5%まで喫煙率を下げることに成功しているのです。

では、どのようにして社員の非禁煙率を驚異的に高めていくことができたのでしょう。まずは煙草を吸う社員全員に対して、喫煙本数のヒアリングを毎月実施。そして、禁煙達成時には1万円を支給したり、ポイントを与えるなどして社員の意欲を高めていきました。

その際、心がけたのが、いきなり全面的な禁煙にしてしまっては、社員にかけるストレスや負荷が大きくなってしまいますので、徐々に無理なく成果を出していけるようにすること。

例えば、禁煙を打ち出した最初の頃は、昼休みの喫煙はOKにしていました。スタートから半年後に、就業中や会社にいる時間は全面禁煙にし、やがては、家庭にいるときも吸わないことにするというように段階的に社員を禁煙に導いていったのです。

また、経営者と社員だけでなく、社員の家族も含め、ファミリー的な温かい絆で結ばれたアップコンでの社風も、禁煙が成功した要因の一つになっています。松藤代表は、毎年、社員や社員のご家族にクリスマスカードなどを送っているのですが、その際にも、禁煙についてのメッセージを添えました。

例えば、社員の奥さんに向けた手紙には、ご主人が吸っているタバコの本数からどれくらいの費用がかかっているか計算した上で、「もしご主人が禁煙すると、ご主人がさらに健康になりますし、○○円くらいのお金も浮くことになります。そのお金を使い、ご家族でハワイ旅行を楽しんみてはいかがでしょうか」というふうに禁煙を提案していったのです。煙草は本人だけでなく、副流煙によってご家族の健康にも悪い影響を与えてしまいますので、ご家族の健康も思ってのことだったのは言うまでもありません。このあたりにも、「健康第一・安全第一・家庭第一」を基本理念に掲げ、仕事だけでなく、家庭生活も大事にするアップコンらしさが現れています。

さて、このアップコンの禁煙への取り組みにかかった費用はというと、年間でわずか60,000円でした。そして、アップコンでは引き続き、社員の喫煙率ゼロ%を目指しており、健活倶楽部が発足した2016年からは、喫煙者は社員として採用していていないそうです。

アップコンでは、「体力の見える化」にも費用をかけずに取りくんでいます。それは、スポーツジムで体力測定をおこない、自分の現在の体力を把握するもの。「どれくらいの持久力があるのか」「どれくらい筋力がついているのか」といったことは健康診断ではわかりません。自分の体力についても認識することで、「もっと体力をつけたい」「病気に強い身体を作りたい」という社員のモチベーションアップへと繋げているのです。この「体力の見える化」にかかった費用も、スポーツジムの利用料だけなので、一人250円、全体で1万円におさめることができました。

3.ポイント制の活用でさらにモチベーションアップ

アップコンの社員のみなさんのやる気をさらに高めているのが「健活ポイント制度」。これは、健康に関する活動に応じてポイントが与えられるものです。

例えば、「健康のためのレクレーションやイベントに参加したら」「通勤で会社と駅の間の移動を歩きにしたら」「階段を使ったら」といったことでポイントをもらえるものです。中には「健康診断結果に注目項目がなければ500ポイント」「禁煙を達成した人には10,000ポイント」という大きなポイントをもらえるものもあります。

これらによって溜めたポイントはお金に換算でき、社員のみなさんはカタログの中から自分の欲しい商品を購入することができます。また、コミュニケーション(食事会)の費用にも使われ、端数は社会福祉法人に寄付をおこなっていると言います。

アップコンが費用をあまりかけずに効果を出せた要因の一つに、デジタルツールをうまく使ったことも挙げられます。

例えば、社員がどれだけ歩いたかを競うイベント「ウォーキングラリー」では、スマホで使える歩数計アプリ『RenoBody』を導入。これによって一人一人の社員がどれくらい歩いたかという個人戦もちろん、チーム戦で競ったりもできるもの。これによって、「まだまだ上がいるなあ。負けていられない。もっと歩こう」などと、みんなでワイワイと楽しみながら運動へのモチベーションを自然に高めることができました。

既存のアプリを使えば、自社でのアプリ開発をせずとも、費用や手間かけずに利用できるというメリットがありますし、『RenoBody』なら場所や時間にとらわれずに、ウォークイベントを開催することもできます。さらには、これによって得られた歩数データを活用し、「予防できている病気」「将来リスクがある病気」などの活動評価レポートも見ることができますので、上手に活用していきたいところです。

4.期待以上の相乗効果を生んだ健康経営

2016年2月に「健活倶楽部」発足させ、健康経営に取り組んだことで、社員が健康になり、病欠などを減らすことに成功したアップコン。そのことは、会社の経営を安定させることにも大きく寄与しています。ですが、健康経営がもたらすメリットは、社内だけに留まりませんでした。お客様やパートナー企業からのアップコンへの評価もぐんと高まっていったのです。

例えば、それまで仕事現場でも休憩時間に喫煙する社員が多かったため、灰皿の設置や喫煙のための場所の確保などの点でお客様に気を使わせてしまっていましたが、その負担もなくすことができました。特に一般のご家庭を訪問したときは、「社員のみなさんから煙草の匂いせず、真面目で清潔な印象を持ちました」とお客様からも評価をいただき、会社全体のイメージアップにも繋がっていったのです。

お客様から喜んでもらっていることを知ると、社員のみなさんのモチベーションも高まり、健康への取り組みにもさらに熱が入ります。また、厚生労働省などからも表彰を受ける企業の一員であることに誇りを感じるようになっていったと言います。

また、アップコンでは人材採用にもとても良い影響が出たと言います。近年は少子高齢化などのよる人手不足が続いており、人材採用に苦戦する企業がたくさんあります。特に建築・土木は、人材不足が特に顕著な業界です。そんな中にあって、アップコンは7名の採用に成功しました。

売り手市場ということで、新卒社員は複数の企業から内定をもらっていることが多く、せっかく面接をし、良い人材に採用通知を出しても、辞退されてしまうというケースも数多く見られます。しかし、アップコンは合格通知を出した学生から断わられません。それは、学生自身はもちろん、親御さんの意見がとても影響を与えていると言います。

それというのも、親御さんにとっては何よりも大事なお子さん。少しでも良い企業に入ってもらいたいと願いのは当然のこと。その点、健康経営優良法人2018(中小企業版)となったり、「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」の最優秀賞(厚生労働大臣賞)を受けるアップコンは、大事なお子さんを安心して預けられる企業となっているのです。

5.いつまでも健康で働けることの意義

費用をかけずとも効果的な健康経営ができることを証明したアップコン。アップコンは今後さらに積極的に健康増進の取り組みをおこなっていくと言います。その一つが「健やかポイント」との連携。

「健やか」とは、株式会社ヘルスケアマーケティング、株式会社セルメスタ、株式会社メディブレーンが運営する健康ポータルサイトのこと。ジェネリック差額通知をメールでもらえるサービスや、Webを活用したストレスチェックサービスなどを受けることができます。アップコン独自のポイントとこの「健やか」のポイントを連携させ、社員がさらに健康づくりに取り組める環境を整備していこうと言うのです。

アップコンがこのように社員の健康に力を入れる理由の一つは、社員のみなさんが希望すれば、いつまでもイキイキと元気に働いてもらいたいという想いを松藤代表が持っているから。実際、アップコンには定年制がなく、80歳過ぎまで第一線で活躍した営業マンもいるほどなのです。

「ノウハウや人脈を持つ、経験豊富な社員は、まさに会社にとって大きな財産。健康で、いつまでも自分の好きな仕事を続けられることは、本人にとって生き甲斐になるのはもちろん、長寿社会になっている日本全体のことを考えても意義が大きい」と松藤代表は熱い口調で話します。

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