ヘルスケアIT セミナー12選:⑥学生から見た企業と健康経営の姿とは

このCMを見た事がありますか??

当時、このセリフを口にしても問題ありませんでした。

しかし、今では
上司が部下に行ったらパワハラ。
男性が女性に言ったらセクハラ
妊娠中の方に言ったらマタハラ
この様なドリンクを飲まない方に進めたらアルハラ

などと言われかねない社会になり、働き方や考え方というのは大きく変わっています。

今回は、リクルートに響く健康経営 ~学生アンケート調査(就労環境)の結果発表~
というテーマなので、登壇者の新井先生を通して学生の考え方について触れ、経営を今の時代に合わせられているのか、しっかりとチューニングして頂けたらと思います。

20歳の学生が歩むであろう未来の姿

うつ病の増加、行動安全衛生法の改善など、ここ30年で働き方や、健康系の概念も大きく変わりました。

今回の講師である新井氏は、平成の次の時代の学生と健康経営に関しての研究を進めているのですが、まずは健康経営に関して、20歳の学生がどんな考えを持っているのか、どんな意識でいるのか、という事を、以下の質問から汲み取っていきたいと思います。

Q1、何歳まで生きますか。

A:90~95
B:95~99
C:100以上

学生はCを最も多く選び、平均は104歳。

Q2:何歳まで働きますか?

A:65~74
B:75~84
C:85歳以上

学生の答えは、Cの85歳以上。

ちなみに、この質問をすると、自分のお父さんお母さんは60~70で引退できるのに、私たちはこんなに働かなければならないのか。と学生は不満を露にするそうです。(実際に統計上では、現実的にこの様な働き方になるだろうと推測されています。)

今までは21年学び、39年働き、25年老後。と言われていたものが、今後は

21年学び、64年働き、17年老後。

という長い働き方に変わる事が予想され、より「健康である」事がより求められる時代になりますし、年金の支給についても、試算では今と同じ金額を得られるのは85歳で、国民皆保険も崩壊し近々なくなることが予想されます。

実際に、経済産業省では生活習慣病の中の糖尿病に該当する方(遺伝的なモノを除く)は、ヨーロッパの様に保険が適応されない。という形が徐々に進んでおり、このまま進むと、お金がないと治療が受けられない。という世界が日本にも到来する事が予想されています。

会社と国における「健康経営」の認識の差

健康経営とは

従業員の健康増進を重視し、健康管理を経営課題として捉え、その実践を図る事で、従業員の健康維持・増進と会社の生産性向上を目指す新しい経営手法のこと
(健康経営研究会より抜粋)

従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること。
(経済産業省より抜粋)

と定義しているのですが、そもそも、なぜ今、健康経営が重要視されているのでしょうか。

社会的には
・超高齢化社会
・生産年齢人口の減少による貴重な労働者
・年金や保険財政の圧迫等による定年延長

が挙げれあれ、生涯現役社会が謳われているなどの背景があります。一方、労働者としては

・労働人口の減少による一人あたり仕事量の増加、IT社会への適応
・うつ病等の精神患者、また生活習慣病患者の増加
・法律違反による「ブラック」企業の増加、公的外福利厚生費の削減

などの背景があり、従業員の健康が第一であるという事で、各企業様が取り組んでいる流れがあります。

日本の健康経営の現状

日本では、2006年に健康経営研究会が立ち上がり、2014年から経済産業省の方で健康経営銘柄の認定を開始。2017年には健康経営優良法人の認定が始まり、2018年に認定による一業種一社の制度が撤廃され、2019年から健康経営銘柄の認定者が増加し、ホワイト500も2019年1月時点で800社を超えています。また、中小企業部門に於いては、昨年800社であったものが今年は3000社を超える規模になっています。

現在、ホワイト500においては上場企業の四社に一社が応募している状態であり、業種の中の上位1位、2位の企業がホワイト500を取っているのに、それ以下の企業がホワイト500を取っていない。という状況では、学生側から見ると、「ホワイトがない会社」という風に見えてしまう。という見え方も考えていかなければなりません。

海外とは異なる、日本の健康経営

企業がウェルネスプログラムに1ドル投資したら医療コストが3.27ドル下がった。というアメリカでのデータを元に、日本は健康経営に取り組んでいますが、そもそも日本では医療コストは下がりません。

経済産業省のセミナーに出ている方はご存知かと思いますが、2011年Newsweek儲かる健康経営最前線のジョンソン、アンドジョンソンの事例で、1ドル健康に投資したら3ドルのリターンがあったのですが、日本とアメリカでは国民皆保険と民間保険等のバックグラウンドや背景が異なるので、そもそもの背景が異なっているのです。

なので、もし医療コストを下げようと思って健康経営に取り組まれている方がいらっしゃるのであれば、今すぐ修正をしてください。(実際に、経済産業省も2016年から医療コスト削減のための健康経営というのを止めています)

また、健康経営に取り組んでいる企業は、株価パフォーマンスが高い。という発表を受けて、健康経営に取り組めば株価が上がる事を切り口に経済産業省は普及を行っていますが、イメージアップ、リクルート効果、モチベーションの向上、医療コスト削減生産性の向上というデータが元になっている事も、その背景として知っておいて頂きたいと思います。

健康経営の前後比較データ

一方で、新井氏が行った研究は、上場企業1000社に対して、健康経営優良法人とその他上場法人との比較アンケートになり、調査対象は、東京証券取引所第1部上場企業の33業種、調査期間は、2017年10月から2017年12月に行われたものになります。

取り組む前と取り組んだ後の調査結果。という形は、研究としては一番下のレベルになります。というのも、対照群を用いた研究をしない限り、何かをやれば何かしらの変化が生まれるのです。

例えば、ヨガ教室をやれば、身体が温かくなった、元気になった気がすると答える様に。

なので、健康経営をやって、前後比較しか出てこない研究というのは、残念ながら信頼性はそんなに高くないというのを理解した上で参考にして下さいませ。

ちなみに経済産業省のデータは全て前後比較になります。

対照群を用いた前後比較をしてほしいと伝えていますが、彼らは対照群を用いた比較をした場合、健康経営をやっていないところに答えさせるのは不可能である。というスタンスを取っており、今のところ前向きな回答が得られておりません。

3つの結果について

・結果1

取り組み年数が1年~3年が多い。

健康経営で目指している目標は、その他が1位。2番目が、医療コストの削減を目指している企業が多く(先程もお伝えしましたが医療コストは削減されません)、外的効果としてのイメージアップやリクルート効果というのは目指していない。

・結果2

健康投資に対する3倍以上の健康投資効果の企業の実感値については、日本では健康経営に取り組んだ企業でさえ、3倍以上のリターンを感じられなかった。

ただ、結果を見る限り、何社かの方は結果が出たと感じているが、平均的には感じていない様です。

・結果3

期待される効果5項目の実感値と、健康経営優良法人とその他の比較について、健康経営を実施する事による生産性の向上は感じており、医療コストの削減については、あまり感じられていない。

健康経営に取り組むと、短期的には医療コストは上がり、長期的には医療コストが削減されるのではないか、という希望を持って取り組んでいるというのが現状で、モチベーションの向上に関しては有意差は見られなかった。

イメージアップにおいて、同業他社に対して良い、採用過程での健康系の話題が増えた。という有意差がはっきり現れた比較であった。

そして今回のメインのリクルート効果についてですが、3.35と採用応募者数に対しては若干の影響が見られますが、離職率に対しては3.06となっており、健康経営に取り組んだら離職率が下がる、と経済産業省をはじめ様々なところが主張しているのですが、現実的なデーターで見ると下がると感じている企業は少ない事が伺えます。

このデータを元に、経済産業省にも離職率が下がるというのは言わない方がいい。と提案しているのですが、直近の資料にも入っているのが現状になります。

4つの考察

1、健康経営と名うっていないが、企業は安全衛生分野の延長で社員の健康増進に取り組んでいた。
2、健康経営に取り組んでいる年数は3年以内が7割となり、本格的取り組み年数は短かった。
3、健康経営に目指している目標の多くはその他であり、外的効果のイメージアップとリクルート効果を目標に設定している企業はいなかった。
4、日本において生産性の向上イメージアップリクルート効果を実感していたまた医療費の低減を長期的に期待していた。

結論と、そこから導かれる仮説について

〇日本で初めて健康経営の実感値が示された

経済産業省資料をはじめ、多くは前後比較分析しなかったが、今回初めて対照群がある分析的研究において有意差が示され、健康経営はコストではなく投資としてリターンの可能性が示された。

〇先行研究と今回の日本での調査の相違点

健康投資に対し、全体で3倍以上の効果、医療費の削減に関しては、日本では実感出来ず、保険制度の違い・取り組み年数の違いが期待される効果に影響を与えていたことが推察された。

〇イメージアップを特に実感していた

健康経営に取り組む際は、効果を最大限に高めるために広報IR部との緊密な連携が示された。

イメージアップによる広告換算値

健康経営銘柄に選ばれているSCSK社は、5年で200回メディアに出ており、広告費に換算すると5億円に該当。また大京社は3年で129回で3.38億円に該当。

目標と実感値の差は、目標はその他や医療コストの削減であり、生産性向上やイメージアップといったものが実感としてあった。

ここからは、新井氏の仮説になりますが、健康経営に取り組むと、短期的には医療コストが上がるので、医療コストはマイナスに働きますが、その後中期的に於いては、イメージアップからモチベーションアップやリクルート効果に波及すると考えられ、また更に長期的な視点では、医療コストの削減に繋がると考えています。

健康経営に取り組んだら、リクルート効果はすぐに上がる。と謳っているが、それは稀なケースであり、イメージアップがあってからリクルート効果が上がっていく。というステップが妥当で、健康経営優良法人や銘柄を取っただけでは全く意味がなく、メディアをうまく活用することによって、リクルート効果の最大化を得られる事が予想される。

学生から見た企業の姿とは

大学生の健康経営等の認知度調査とホワイトやブラック企業の働き方を含む就労調査を行った。

調査対象は大阪大学、昭和女子大学、明治大学、武蔵大学、山野美容芸術短期大学等を抽出。調査期間は2018年10月から2018年11月にかけて、Google、フォームを利用し10大学401名にWebアンケート調査を行った。(短大のデータは偏っていたため、短大のデータは除く)

回答学生数は169人

認知度アンケートと健康経営企業への就業希望度について

ホワイトブラック企業の認知度は100%
2016年の時は95%でした私、ホワイト企業とは何かという回答を答えられない学生が多かったので、それを補うために表彰制度の認知度を調べた。

知らない75人
ダイバーシティ59人
なでしこ38人
女性が輝く37人
健康経営は第5位

健康経営の企業で働きたいと思いますかYES141人で87%。No、その他優先は28人
その地域で働きたい、その会社で働きたい。などを優先したいが、多くの学生は健康経営をやっているのであれば働きたい。という答えが現状になっています

学生が思う、ブラックとホワイトの姿

昭和女子大学の学生にどんな企業がホワイト企業ですかという質問をした際に、昼寝がある企業と答えたり、腕は昼寝がない企業はホワイトではないのですかという問いにも答えられなかったりと言った背景があるので、その辺を加味してご覧いただけたらと思います。

ホワイト企業だと思う働き方について教えてください。という質問に対し
有給休暇が90%以上取得する
残業がない
週40時間保育所子供補助制度がある
が上位3つの項目になりました。

逆に、ブラック企業だと思う働き方について教えてくださいという質問に対しては
深夜勤務がある
体を動かすことが就業時間の半分以上である
同一労働同一賃金が上がりました。

同一労働同一賃金は学生にとってブラック企業である。というところが非常に興味深いところです。最近、同一労働同一賃金というのを推し進めている、積極的に取り組んでいる企業や政府ですが、残念ながら学生から見ればブラックなのです。

なぜ、学生にとって同一労働同一賃金がブラックなのか。というところですが、責任を持ちたくないので安い値段でいい、というのが学生の主張であり、裏を返せば、責任があるから賃金が高い、というのは納得ができる。という事で、同じ仕事をやっていても責任感が違うのであれば給料に差があっても問題がないというのが、学生の考え方であり、おそらく政府が考えている方向とは異なっているのでかなり面白い結果の1つです。

学生と経産省・企業の間にある溝

この資料を経済産業相に提出したところ、学生はサボりたいだけではないか、という回答があったのですが、学生側としては、お父さん、お母さん、姉ちゃんが働きすぎているからこういう制度がある企業がいい。という意見を出しています。

この大きな溝は、私たち大人が作り出してしまった結果でもあります。例えば、子供の運動会に行けない、緊急の用事があっても休めない、という家庭で育ってきた子供達は、休んで一緒に遊びたい。という背景から生まれたデータなのです。

また、学生は奥様の出産、保育所や子供補助制度がある事をホワイト企業だと認識しているので、健康経営には直接該当しないかもしれませんが、この様な制度を導入すると、学生のリクルート受けはいいのではないかと思います。

これは補足になりますが、子供が生まれる時、産休育休で休みたいというのが男性にはありますが、女性にとっては「当たり前の事」で、長く働くために保育所や子供補助制度がある会社がいい会社、ホワイト企業である。と認識しています。

また面白いところが新規学卒者の3年以内の離職率が3割以上。というのは一般的な数字ですが、学生からみるとブラックなイメージがあるのも事実です。

他に質問項目の中で有意差があったところだけを紹介すると、新規学卒者の3年以内の離職率と、食事管理・食事指導があるというところは、特に女性の関心が高く、自分で体調管理とか姿勢を管理する上で食べ物が大切だということは理解しているが、自分で考えるのが大変なので、指導がある会社に行けたら。という意見での回答でした。

今、副業制度を会社に入れようという流れが多いですが、学生としては就職する際に重要視する項目ではない流れで、男性は、給料が高い、企業の業績が伸びている、働き甲斐がある、自己の成長が望めるというのが上位に入ってきました。

女性では、第3位に雇用の安定、第4位に風通しが良く人間関係が良好、第5位に従業員の健康に配慮という形で男女差が表れているところです。

逆に検討していない項目として、男性であれば引っ越しを伴う転勤がない、副業制度があるリカレント教育制度が充実しているというのは重視されていません。
 冒頭でお伝えしましたが、政府はリカレント教育が必要だと言っていますが、学生にリカレント教育制度があると言ってもほとんど響かないということが推測されます。これは女性の方も同様で、リカレント教育制度や副業制度はほとんど重要視していないのです。

ただ注意して頂きたいのは、このデータは学生であって転職者ではありません。おそらく転職者の場合であれば、副業制度はもう少し有意に上がってくると思いますが学生の場合は重視していないという形になっています。

最後に有意差があったとこだけ紹介させていただきますと、引っ越しを伴う転勤がないというのは女性が圧倒的に高いですし、癌等の病気になっても働ける環境というのは男性では低いですが、女性では圧倒的に高いです。

また定年が自分が望む限り延長ができるというのも女性の方が高く、女性は安定的に長く働きたいという願望が推測されます。

リクルートのまとめ

まず最初にイメージアップをしてほしいので、プレスリリースだけでなく、テレビや新聞、雑誌等の掲載へホワイト企業の宣伝が有効だと思ってまして、ホワイト企業が何をやっているのかという、有給休暇の取得率、産休育休、育児補助制度、残業時間の開示などをすると学生に受けるのではないか

健康経営は第3位。というデータから、働き方や健康に配慮説明、福利厚生の開示すると学生に届くのではないかという調査データになります。
またこのデータをまとめて論文化して発表する予定です。

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