【セミナーレポート】健康経営から始めるウェルビーイング経営

2024年2月20日(火)、Care Show Japanのセミナーの一つとして開催された『健康経営から始めるウェルビーイング経営』。保険者、民間企業、メディアそれぞれの立場から日本の健康経営を牽引してきた三人による講演&パネルディスカッションは、健康経営をいかに個々のウェルビーング(幸福)に繋げていくかを考える上で貴重なセミナーとなりました。

<モデレーター>

熊倉利和(健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS株式会社代表取締役社長)

<ゲスト>

小松原祐介(健康保険組合連合会 組合サポート部長〔保健担当〕/経産省健康投資WG委員)

奥野洋⼦(都築電気株式会社 総務⼈事統括部 ⼈事戦略室 担当課長)

※注:肩書はセミナー当日時点のものです。

1.健康経営&ウェルビーングの本質とは

まずモデレーターを務める熊倉から今回のセミナーの趣旨の説明がありました。

「そもそも健康経営とは、従業員の健康づくりをすることで会社の収益を高めていく投資です。そして、ウェルビーングは、肉体的、精神的、社会的に満たされた状態であること。幸福と言い換えてもいいでしょう。また、経営の“経”は、仏教では縦糸という意味があるそうです。

つまり、健康経営という“やり方”を使い、ウェルビーングという“在り方”に縦糸のように結びつけていくのが“経営”なのではないでしょうか。本日はそういったことを考える上で最適な方にお越しいただいています」

続いて小松原祐介氏と奥野洋⼦氏の講演。健康経営優良法人認定の制度設計にも関わった健保連の小松原さんからは、データヘルス(※1)、コラボヘルス(※2)についての解説も含め、健康保健組合の在り方が以前と現在では変わってきているというお話がありました。

都築電気の奥野さんからは、ワーキンググループを作るなどして社員自ら動くボトムアップ型健康経営を推進。経営陣と一般社員の垣根を取り去りながら、働きやすい環境を作っていった事例をお聞きすることができました。

保険者、民間企業それぞれの立場から健康経営やウェルビーングの本質、広め方について触れていただいた後、熊倉を交えたパネルディスカッションとなりました。

2.社会的健康づくりのために何をすべきか

熊倉:健康の定義として、肉体的、精神的、そして社会的な健康があります。体や心の健康づくりについてはイメージしやすい。ですが、社会的健康(自分以外の人や社会と健全なつながりを持つこと)について、保険者として何をすればいいとお考えでしょうか。

小松原:体については健診を受けてもらう、保健指導をする。心にはメンタルヘルス対策などがあります。社会的健康については、いつでも、どこでも誰もが医療機関にかかることができるという安心感を支えるのも健康保険組合の役割だと思っています。

熊倉:奥野さんに伺います。民間企業として心身の健康づくりと社会的健康づくりの違いをどのように意識していますか?

奥野 :健康経営の導入当時、テレワークをはじめとする多様な働き方や、健康診断やストレスチェックを起点とした心身の健康づくりが全社員に行き渡ることが、結果的に社会的健康づくりに役立つと考えていました。それはその通りなのですが、一口に健康と言っても「女性の健康づくり」「50代の健康づくり」では、医療的なアプローチも社会的支援のあり方も異なります。

健康経営が定着・成熟した現在では、ベースとなる心身の健康づくりの支援環境が整ってきたからこそ、社員がライフステージに応じて多様で柔軟な働き方を自律的に選択し活躍し続けられるよう、更に一歩踏み込んだ施策の充実を推進しています。

熊倉:なるほど。健康経営の制度設計にも携わっている小松原さんは、健康経営とウェルビーイングの関係についてどうお考えになっていますか?

小松原:今までの健康経営は、どちらかと言うと従業員の健康について考えてきましたが、都築電気さんのように一歩進んだ企業では、従業員だけでなく、その家族までしっかり視野に入れています。というのも、従業員の心身が健康であっても、奥さんやお子さんが病気ですと従業員のストレスも大きくなり、仕事が手につかないということにもなりかねませんから。

さらに視野を広めると取引先の健康もあります。例えば、下請け企業がブラックであるのを黙認していいのかといったこと。大学で講義をすると学生から「健康経営優良法人認定を受けている企業でアルバイトをしているのですが、窓も換気もない場所で皿洗いを休憩もなくやらされています」といったことを聞きます。

もう一つ大事なのが、地域社会の健康や幸せにどうコミットしていくか。つまり、健康経営を推進することでその地域の人もウェルビーングな状態になれることが求められてきているのではないでしょうか。

3.ボトムアップ型健康経営でウェルビーングを実現

熊倉:この約10年間、奥野さん自身はどういう想いで健康経営に取り組んできましたか?

奥野:健康経営のワーキンググループ発足は、私が都築電気に入社して4年目の2016年です。当時、総実労働時間は業界平均に比べて多く、働き方の多様性は乏しく、若手ながら社員の疲弊を感じていました。
優秀な先輩社員が次々に転職する中で、後輩に同じ辛い思いをさせて良いのだろうかという疑問がありました。働き方と健康への意識・行動を変革したい。その手段が健康経営であり、現場社員の声を経営に届けて施策を実行する枠組みをつくり、持続可能な成長に向けて企業と社員が取り組めることがあるのではないかと考えました。

サステナブルな活動であるためには、それぞれのステークホルダーにメリットがあることが重要です。スタートは健康経営や働き方改革を皮切りにした取組でしたが、企業のサステナビリティに向けた取り組みは、社会貢献・環境マネジメント・コーポレートガバナンスなどすそ野が広いため、それらを統合するマネジメントサイクルづくりを心掛けました。

今後は、事業を通じた社会への価値創出につながるような取り組みがより一層重要と考えています。

熊倉:私は、セミナーの冒頭にウェルビーングは「在り方」だというお話をさせていただきました。健康経営は企業のトップにしかできないと思われがちですが、奥野さんのように一人の人間としての在り方、考えを周りに伝え、組織を変えていくことができるのだと今のお話を聞いて確信しました。では最後に、今回のセミナーにご参加いただいて気づいたこと、感じたことをお伺いしたいと思います。

小松原:健康経営が世の中に広まっていった時は、経営者の強力なトップダウンの元で推し進められましたし、それは間違っていなかったでしょう。ですが、そろそろ従業員のほうから「自分達の会社がこうあってほしい」「こうすべきだ」という意見を上げていく必要がありますし、従業員が自走し、「自律的働き方」「創意工夫・挑戦」「自己実現」の段階に早く進んでほしい。そのためにも企業は、保険者や地方自治体にも遠慮せずに協力を求め、一緒に推進していってほしいと考えています。

奥野:健康経営の枠にとらわれず、自社や社会にとって最もメリットのある課題解決や価値創出の在り方は何だろうと、本質的な議論を続けることが重要かと思います。健康経営担当者は、うまく同じ電車に乗ってもらえるような導線を引くと、同じ志を持った仲間を社内外につくっていけるのではないでしょうか。今後も、活躍の土台となる健康を社員が自律的に維持・増進できる環境を整備すべく、健康経営をはじめとするサステナビリティ活動で実践して参ります。

熊倉:素晴らしいお話です。本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。

【取材後記】

健康経営をいかにしてウェルビーングに繋げていくかという、今まさに求められているテーマで開かれた今回のセミナー。健康経営をトップダウンからボトムアップ型に変え、地域や自治体、他社を巻き込むことで働く人のウェルビーングや幸福度を上げていくことができる。健康経営を土台としながら自律型人材を増やしていくといった、健康経営のこれからの方向性を差し示す大変示唆に富んだセミナーとなりました。

(※1)保険者が保有するレセプトなどの保険者データの分析と活用により、効果的に加入者の疾病予防や健康づくりを行うこと。

(※2)保険者と事業者が積極的に連携し、明確な役割分担と良好な職場環境 のもと、加入者の予防・健康づくりを効率的・効果的に実行すること。

<企業データ>

会社名:都築電気株式会社

事業内容:ネットワークシステムおよび情報システムの設計、開発、施工、保守

本社所在地:東京都港区新橋6−19−15 東京美術倶楽部ビル

資本金:98億1,293万円

従業員数:1,295名(2023年3月)

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