シリーズ『広報担当に聞く』 社内外への情報発信によって全てが循環していく(三幸土木)
お手本とも呼べる健康経営を実現している三幸土木さん。健康経営を成功に導いているのが、社内外への情報伝達やコミュニケーションです。今回は社内報の発行やホームページの企画・運営などを担う3人にお話を伺いました。(インタビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役 熊倉 利和)
〔三幸土木株式会社〕
宮路浩貴さん(企画業務部 部長)
池田愛美さん(企画業務部)
東 佳奈さん(企画業務部)
目次
1.従業員の家族にも情報を届ける
――まずは御社の社内報について教えていただけますか?
東さん:はい。月に一回発行し、給与明細に同封して配布しています。それは、従業員はもちろん、その家族にも読んでほしいという狙いがあるからです。そのため、社内報のほかにも会社からの手紙や料理のレシピなども同封しています。
――従業員だけでなく、従業員のご家族とのコミュニケーションも大切にしているのですね。
宮路さん:その通りです。社内報の前身となるのが奥様レター。建設業と聞くと、まだ荒々しいイメージを持たれる方もいらっしゃいます。そこで、「誇れる仕事なんだ」「こういう会社なんだ」ということを従業員のご家族にも知ってもらいたいという想いから、奥様レターを届けていました。
奥様レターでは、健康経営の取り組みなどを伝えていました。それとともに、三幸ファーム(本社敷地内にある農園)で採れた野菜や、その野菜を美味しく食べるための料理レシピも渡すようにしました。つまり、「当社で採れた野菜を使って、美味しくて健康に良い料理をご家族で食べませんか?」というところから従業員の家族と繋がろうと考えたわけです。そうすることで、奥様やお子さんにも、ご主人、お父さんの仕事に興味を持ってもらえるようになるのではないかという期待もありました。
また、健康づくりでもご家族の協力は欠かせません。当社のおこなっている健康づくりプログラム『野菜をもう一皿食べよう』もそうですし、体重管理や禁煙でも家族のサポートがとても大事。例えば禁煙でも旦那さんが家でタバコを吸おうとした時に「今は禁煙チャレンジ中でしょ」と奥様が言って止めてくれるかもしれません。
――それはいいですね。奥様レターが社内報に変わった理由はなんですか?
池田さん:一つはコロナ禍です。予防対策など会社から伝えたいことが増えていたということもあり、奥様レターではなく、より多くの情報を載せられるということで、2020年11月から社内報という形にしました。
――現在の社内報の内容は?
東さん:社内イベントや行事の結果報告、参加者のインタビューなどのほか、夏場なら熱中症対策といったようにタイムリーな話題を載せています。写真もたくさん使い、文章表現も柔らかくして楽しく読んでもらえるように心がけています。
池田さん:以前は禁煙チャレンジや健康イベントなどで頑張った人を讃える機会が設けられていましたが、コロナ禍となりみんなが一堂に集まることは難しくなっています。そういった背景もあり、頑張った人を社内報で紹介することの必要性がより増していますし、記事を読んだ人のやる気を引き出すことにも効果的です。
――三幸土木さんは健康イベントを数多く開かれていますので、健康関連のネタには困らなそうですね。仕事に関連した記事を載せるのもいいかもしれませんね。
宮路さん:それはいいアイデアです。従業員の奥さんやお子さんは普段、旦那さん、お父さんがどんな現場で、どんな仕事をしているかなかなか知る機会がありません。ですので、仕事の内容を紹介することで、従業員とご家族、ご家族と会社の距離も縮まると思います。
池田さん:載せたいことは本当にたくさんあります。今、言った仕事関連も含め、よりたくさんの情報を載せていきたいという話をしているところです。
2.社内コミュニケーションの活性化
――社内報に対する従業員の反応などはありますか?
東さん:はい。例えば、クリスマスが近づいてきた頃、インタビューを受けてもらう従業員に演出としてサンタクロースの帽子を被ってもらいました。すると普段あまり会話のなかった同僚から「広報誌のインタビューでサンタの帽子を被っていたね。似合っていたよ」といった話も出て、ワイワイ盛り上がっていました。
池田さん:当社の場合、仕事柄、直行直帰する人が多いので、現場が違う従業員とは会う機会がそれほど多くありません。そこで、社内報が従業員同士のコミュニケーションを活性化するツールにもなればいいと考えています。
――それはいいですね。社内報で健康経営や会社の想いを伝えているうちに、従業員からもリアクションが返ってくるようになる。すると「ウチの部署のことも取り上げてくれ」「この人にスポットを当ててはどうか」「こんなコーナーも作ってほしい」といった要望も出てくるようになるのではないでしょうか。
池田さん:はい。先ほどの熱中症の話でも、「工事現場だと夏に熱中症が起こりやすい。熱中症の注意喚起をしてほしい」というリクエストを安全衛生の担当者から受け、急遽、7月号に熱中症の記事を掲載しました。
――他社の例を見ても、読んだ人からの要望が出てくる段階になると、社内報がどんどん成長していきます。御社もその段階に入っていますね。
池田さん:そうかもしれません。作り手側の一方通行ではなく、様々な人が社内報に関わってくれることで、社内報の内容が充実し、役割が広がっていくのだと思います。
3.全ては広報に繋がっていく
――同じように健康経営に力を入れていても、社内に対ししっかり情報発信している企業と、そうでない企業では大きな差が出てきます。その点、御社は奥様レターや社内報、三幸ファームで採れた野菜やレシピの提供などで従業員やそのご家族にしっかり発信することで健康経営が見事に浸透していますね。それはもはや社内広報と呼べる水準まで達しています。
池田さん:ありがとうございます。健康増進のためのイベントを開催した場合もやりっ放しではなく、しっかり結果を伝えることが大事だと考えています。「今回のイベントでは、みなさんとても頑張ってくれました。次はこうなるともっといいですね」などと伝えると次回のイベントにも繋がっていきますし、回を重ねるごとに盛り上がっていくことを実感しています。
――それらの社内向けコミュニケーションだけでなく、ホームページをリニューアルされ、「新・建設業始まる。」という新たなキャッチフレーズで情報発信をされています。社外へのアピールにも力を入れていますね。
宮路さん:はい。ある専門学校の先生が講演で「建設業のパンフレットは面白味がない。様々な会社のパンフレットを見せてもらうが、建物の写真が載っているだけで、文章も硬く、どれもつまらない」という話をされていました。その先生のいる専門学校のパンフレットは、今の高校生に響くアニメ風のデザインにしているとのことでした。
確かにパンフレットにしろ、ホームページにしろ建設業の情報発信のツールはどれも真面目で硬いものばかり。それでもっとキャッチーなツールを作ろうと新しいパンフレットを作成した時に「新・建設業はじまる。」というキャッチコピーを使い、デザインにも工夫を凝らしました。
――ホームページでは業務や職種の紹介もしっかりされて、人財採用に繋げる構成になっていてとても素晴らしい。
池田さん:ありがとうございます。実は当社のホームページは、新卒採用を目的に立ち上げたものです。そのため、もともと職種や事業内容の紹介に訴求性が求められていました。そういう意味では、会社や仕事の魅力を伝えたいという明確な軸がありますので、どういう内容にすればいいかと迷った時に立ち返ることができます。
――ホームページの更新はどれくらいの頻度で行っていますか?
池田さん:月平均で3、4つの記事をアップしていますが、大きなイベントなどがあった時は特に時間をさきます。私自身、そのほかにも就活サイト関連や新卒採用のためのツール作成、健康優良法人やアワードの申請、社長の講演時の資料作成などの業務を行っています。広報そのものという仕事はあまり多くないかもしれませんが、最終的には広報に繋がるものです。ですから、全ては広報のためと言ってもいいかもしれません。
4.新卒採用でも効果を発揮
――新卒採用への影響はどうですか?
池田さん:はい。ホームページをリニューアルして、より多くの就活生の方に興味を持ってもらえるようになりました。
宮路さん:特に学生さんは、紙媒体よりスマホなどによって就活の情報収集をします。そのため、スマホでも見やすいように情報を整理し、目的のページにすぐに辿り着けるように構成などをさらに見直していきたいと考えています。
――就活生に会社をアピールする場合、「就活サイトを利用する」「合同企業説明会に参加する」「仲介会社に依頼する」など学生さんと接点を持つ方法がいくつかありますが、自社ホームページから発信できるのは大きいのではないでしょうか。
池田さん:そうですね。自社ホームページを充実させたことにより、インターンシップも含め、学生さんとの新しい接点、入り口ができました。自社のホームページですと、就活サイトなどの掲載料、仲介会社へ支払う費用もかかりませんからメリットが大きい。
ただ、自社ホームページですと、元々当社のことを知っている人、たまたま検索などで当社を見つけた人しか辿り着くことができません。今の段階では、間口を広げるために、閲覧数が多い就活サイトや合同企業説明会なども大事だと考えています。
――その際、企業として学生さんたちへのアピールポイントがないといけませんね。御社でしたら30以上に及ぶ健康施策を実施し、自社敷地内にレジリエンスセンターも建設。社員に野菜を配るための農園まであり、従業員をとても大切に考えているといったアピール材料があります。
池田さん:そういう意味では確かにアピールの材料は多いほうだと思います。あとは普段やっていることをどのように伝えていくか。例えば、社内で何かの研修や講習会を開いた際もホームページなどに載せることで「この会社に入社すればスキルや知識が身につく。成長することができる」と就活生に対してのアピールになりますので、情報発信は積極的にやっていきたいですね。
5.小さく始めて大きく広げていく
――奥様レターが社内報に進化したように、御社は何か取り組みを始めたらそれが見る見る広がっていくところが素晴らしいですね。
宮路さん:ありがとうございます。例えば、昨年開催したウォークフェスも最初は「社内で有志を募って休日に歩こうか」という感じで、こぢんまりとやる予定でしたが、企画がどんどん膨らんでいきました。
池田さん:そうでした。どうせなら誰がどれくらい歩いたかランキングを出し、動画も作成しようという話に発展しましたね。
宮路さん:今週のランキングや、誰がどんな場所を歩いているかを紹介する動画を池田が作成。ウォークフェスの期間中は、みんなが現場から帰ってくる夕方5時頃に、その動画を社内に流しました。ランキング発表にしても紙だけではあまり見てもらえませんが、動画だとつい目がいってしまいます。
池田さん:新鮮さを失わないように毎週、手を替え品を替えて見せ方を工夫しました。全体のランキングもあれば、年齢別や女性だけのランキングを出したり、クリスマスの時はサンタを走らせるなど季節感やイベント感も出しながら、ウォークフェスの終盤に向けて盛り上がるようにしました。反響も多くもらえましたし、イベントとしては大成功だったと思います。
宮路さん:先ほども話に出たように当社は直行直帰の社員が多い。現場が違う人のことはあまり知らないので社内コミュニケーションの活性化には今後も力を入れていきたいですね。例えば、社内SNSに新入社員の紹介動画を載せるのも面白い。みんな興味を持って見てくれることでしょう。
池田さん:そういう意味では色々できますし、広げていけますね。
――素晴らしい。しっかりとした成果に繋がる、まさに戦略広報そのものです。
【取材後記】
戦略広報とは、広報活動によって経営に成果をもたらすこと。経営戦略に基づく広報です。三幸土木さんの場合、健康経営の取り組みを社内外に発信することで、経営そのものに良い影響や成果をもたらしています。
例えば、社内報によって従業員だけでなくご家族にも自社の活動を伝えることで、会社へのロイヤルティやエンゲージメントの向上に繋げています。また、ウォークフェスでは、誰がどんなふうに歩いているかなどを動画で共有することで一体感の醸成に役立てています。さらに、取り組みや理念をホームページで社外に発信することで新卒採用でも効果が生まれるなど、戦略広報がしっかり機能し始めていると感じました。
<企業データ>
会社名:三幸土木株式会社
事業内容:土木建築一式工事/建築資材の販売/砕石、砂利の採取及び販売/産業廃棄物処理業/全各号に付帯関連する一切の業務
所在地:(日進本店)〒470-0103 愛知県日進市北新町北鶯91-5
資本金:3千万円
社員数:103名