シリーズ『私の生きがい組織』(第一回) 会社は自分の価値観を実現させる場所

今回から新たにスタートする『私の生きがい組織』。なぜ、従業員の働きがいを重視する経営を行うようになったのか。仕事にどのような生きがいを求めているのか。「生きがい組織」のあるべき姿は?といったことを伺うインタビューシリーズです。第一回目は「生きがい組織」の提唱者でもある株式会社セルメスタ代表取締役社長の熊倉利和氏が登場。(インタビュアー:株式会社インターリテラシー 代表取締役ファウンダー ビジネス・プロデューサー 杉山 大輔)

会社と自分の価値観が重なる時

「仕事が生きがいになれば、こんなに良いことはないじゃないか!」
私がそんなふうに思い始めたのは、セルメスタの経営立て直しに取り組んでいた頃。

株式会社セルメスタは父が創業した会社。家庭用常備薬や疾病予防などの事業を展開しています。お客様となるのは、健康保険組合さんなどが中心。15年くらい前から財政難に苦しむ健康保険組合さんが増え、それとともにセルメスタの業績も下がっていきました。

それは、私がセルメスタで働き始めた時期と重なります。何とかしないといけないとずっと思っていましたが、経営幹部になった10年前、社長に就任した8年前には業績がいよいよ悪化。

厳しい経営環境と従業員とその家族を路頭に迷わせてはいけないというプレッシャーの中、みんなを引っ張り、会社を経営していくためには自分自身が強くなければならないと、心を整える瞑想やヨガであったり、体力をつけるために山を走ったりするようになりました。

その一方、一緒に頑張ってくれていた社員の中には、疲弊して会社を離れてしまう人たちもいました。それも無理ありません。1年くらいなら気合と根性で頑張れても、2年、3年と続くと嫌になってしまう人も出てきます。

その人たちに申し訳ないと思うとともに、同じことをしていても頑張れる人と頑張れない人、楽しいと感じる人と辛いと感じる人がいる。その差は何なんだろうとも考え始めました。

「両者の違いは、会社の価値観とその人の価値観が重なっているかどうか。仕事と生きがいがリンクしているかどうかなのではないか。」と考えるようになっていたのです。

私は今、47歳、会社は48年目。幼い頃から父の経営するセルメスタとともに生き、育てられてきたと言ってもいい。自分の人生と会社がほぼぴったりと重なっています。ですから、兄弟のようなこの会社を潰すことは絶対にできないと頑張れましたし、そこに働きがいを感じることもできました。

趣味やスポーツなどにしても、人は自分が好きなことなら大変でも打ち込むことができる。楽しいことをしている時は、あっという間に時間が過ぎる。疲れても、そこには心地良さがあるし、充実感がある。でも、仕事ではそういう気持ちになれない人が多い。それは、自分がやりたいからではなく、会社から言われてやらされているからではないか。

仕事は仕事、収入を得る手段と割り切り、自分のやりたいことは仕事以外でおこなう。そういう考えもあるかもしれませんが、1日24時間の中、3分の1は仕事をしている。その時間を切り売りし、他人の時間にしてしまうのはあまりにももったいないのではないか。逆に会社の価値観と自分の価値観が重なると、仕事を通じて自己実現ができるし、仕事が生きがいとなるのではないか。

今はセルメスタの業績も回復。お陰様で社員のみんなにも以前のような辛い思いをさせないで済んでいますが、あの時の経験は今の私の大きな糧となっていますし、会社を経営する上でのヒントをくれました。

会社を使ってやりたいことを実現

会社の価値観と自分の価値観を重ねる時に、優先すべきなのが自分の価値観。自分の価値観を実現する場所が、会社であると言ってもいいかもしれない。そうなってくると、社員一人一人が「自分の価値観って何?」「自分の生きがいって何?」、そして「何のために働くのか?」ということを考え、知る必要があります。

例えば、イソップ童話の中に3人のレンガ職人の話が出てきます。旅人が、ある町外れの一本道を歩いていると、レンガを積んでいる男たちと出会います。1人目はとても辛そうな顔をしてレンガを積んでいて、「なんで、こんなことばかりしなければならないのか。まったくついてないね」と言います。

2人目は、「こうやって仕事があるから家族を養っていける。大変だなんて言っていたら、バチがあたるよ」。3人目は「俺たちは、今、歴史に残る偉大な大聖堂を造っているんだ。完成後、ここで多くの人が祝福を受け、悲しみを払うんだ。素晴らしいだろう!」

この3人の違いは、仕事を生活に必要なお金を稼ぐためのライスワーク(Rice
Work)と捉えるか、この仕事の内容が楽しいから、“やりがい”を感じているのか、この仕事にやりがいを感じつつ、かつ職場や仲間を大切に感じながら“働きがい”を感じているのか、この仕事に働きがいを感じつつ、自分が死んだ後も、自分の仕事が社会にどう貢献しているのか“生きがい”を感じるのか(Life Work)かの違いと言ってもいいかもしれません。

セルメスタでは、会社の価値と自分の価値がリンクしているかどうかなどについて、私が講師になって、一人一人の社員の価値観を明確化する研修を年1回実施しています。また、社員に対して「この仕事をすることによって、自分のどういう価値観が実現されたと思う?」というような質問をしています。すると、「最初は生活のために働いていましたが、知らないうちに自分の価値観を実現することになっていた」と気づく社員もいたりするんです。

一人ではできることも限られてしまいますが、会社のヒト、カネ、モノを使うことで自分の価値観をより大きな形で実現できるかもしれない。1人の力より10人、50人、100人の力。1人の1千万円より、会社の10億円、50億円、100億円を使うことができる。会社でなら、自分のやりたいこと、価値観を実現できる可能性がぐんと高まります。

個人主義のアメリカなら独立して自分のやりたいことをする人が多いのかもしれません。ですが、人と人の和。ラグビーのONE TEAMのように、みんなで協力して一つのことに向かっていくことに価値を見出す日本なら、会社の中でも自分のやりたいことを実現していけるのではないかと思っています。

「生きがい組織」を社会に浸透させていく

自分の価値観に目覚めてくると、この会社と自分の価値観が合わないと感じる人も出てくる。自分の価値観を違った場所でもっと活かしていきたいと思い、会社を離れるという選択をする人もいるでしょう。でも、それは本人にとっても会社にとっても悪いこととは限りません。たとえば、その人の価値観が実現できる会社に移ることで、能力を発揮しやすくなります。個人の価値観と会社の価値観が合わないことで組織内の軋轢が軽減され、会社の雰囲気もよくなります。更には、個人の価値観を大切にする会社には、それを望む人材が集まるようになります。

自分の価値観を実現し、能力を発揮できる会社に移りたいと考えた時、会社側も、「どんな価値を大切にしているか」「仕事を通じてどんな働きがい、やりがいを得られるか」を明確にしていれば、ミスマッチが起こりにくい。

また、この『健康経営の広場』の生きがい組織のコミュニティが形成されていけば、働く人がそのコミュニティの中で移動するということもできるかも知れない。

このように、その人にとっても、会社にとっても、さらには日本全体にとっても素晴らしいこと。特に日本は少子高齢化、人口も減少していく。より生産性、創造性の高い仕事をしていく必要があります。その人が生きがい、やりがいのある仕事なら生産性、創造性を高めることができます。

そういうこともあり、この「生きがい組織」を世の中に広げていきたいと考えています。

価値観の大きな転換期にあるべき会社の姿とは?

今、社会全体の価値観が大きく変わっています。昭和から平成にかけての右肩上がりの時代なら、親が望むような良い学校に行って、良い会社に入って一生安泰という一律的な価値観もあったでしょう。最近はVUCAな時代ともいわれますが、不確実性が高って、少子高齢化や価値観の多様化する今、それは難しくなっている。

経営にしても、「利益を追求する会社組織なんだから、トップダウンでやった方が効率的」「給料を払っているんだから、会社のやり方に合わせて働くべき」といった従業員を駒のように使う効率優先主義では、うまくいかなくなっています。

ですから、これまでの価値観やスタイルを再構築し、従業員のやりがい、働きがいを最優先に考える組織づくりに取り組んでいきたい。一人一人が生きがい、やりがいのある仕事に取り組むことは、生産性、創造性の向上にも繋がっていきます。

「生きがい組織」はとは、こうあるべき、こういう会社だ、という答や定義は、私自身、まだ明確には見えていません。それを皆さんと一緒に考え、カタチにし、世の中に広めていきたいと思っています。

<企業データ>

会社名:株式会社セルメスタ
事業内容:一般用医薬品、救急医薬品セット。介護用品、防災用品、健康食品の販売。
郵送検診事業の受託。郵送検診キットの販売。インターネットを利用した各種情報提供サービス及び販売。医療費抑制事業。不動産管理事務の受託。
所在地:東京都墨田区石原4丁目25番12号
従業員数:約60名

<インタビュアー プロフィール>

株式会社インターリテラシー 代表取締役
ビジネス・プロデューサー|『私の哲学』編集長
杉山 大輔 (すぎやま だいすけ)

1979年東京都生まれ、ニューヨーク育ち。慶應義塾大学総合政策学部卒業。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA取得)。2007年株式会社インターリテラシーを設立。著書に『行動する勇気』、『運を動かせ』、『DDDDー行動だけが奇跡を起こす』がある。