健康経営の名づけ親による健康経営実践セミナーの講演レポート(第4回)

健康経営の名づけ親による健康経営実践セミナーの講演レポート(第4回)

2018年9月、健康経営の名づけ親:特定非営利活動活動法人健康経営研究会と大塚製薬の共催による「健康経営実践セミナー2018」が43会場で盛大に開催され、健康経営における現在の取組み状況、企業のこれからの課題、さらに実際に企業内で行なわれている取組み事例紹介を軸として4つの講演が開催されました。健康経営の広場では、このセミナーの4つの講演内容をご紹介してまいります。4つ目の講演は、全日本空輸株式会社人材戦略室労政部厚生チームリーダー・佐藤成俊氏、キャノン株式会社安全衛生部副部長の矢内美雪氏の2名が登壇し、それぞれの企業の健康経営の取り組みについての説明が行われました。


1. ANAにおける健康経営とこれまでの取り組み

ANAの前身は日本ヘリコプターで、現在は連結子会社63社、ANAホールディングス株式会社全体の総従業員数は約4万人を数えるまでになっています。グループ経営理念、グループ安全理念、グループ経営ビジョンを軸としており、健康経営については心身ともに豊かになれるようになることを目指して2016年から取り組みを行っている、と佐藤氏は説明しました。

実は、2006年にはすでにANA健康フロンティア宣言と題して、メンタルや生活習慣病の対策、高齢化社会の準備として取り組みを始めていました。これは、ANA単体で行っていたものですが、それをグループ全体で行うことを目指してより大きく発展させたものが「ANAグループ健康経営宣言」となります。

ANAグループ健康経営宣言前の状況についての調査結果では、生活習慣病の有無は年齢に伴って増えるという一般的な傾向に加えて、主に女性の従業員のBMI値が極端に低い、低体重の傾向が非常に多く見られるということ、さらに喫煙率が高いという現状が把握できました。

ANAグループ健康経営宣言は、中期経営戦略としての健康経営が盛り込まれています。グループ従業員の健康を経営課題とし、2016〜2020年度中期経営戦略としてメンタルヘルス対策の強化を目標に掲げているとのことです。

大きな軸として
①健康管理面での取り組み
②疾病予防対策
③メンタルヘルス対策
④安全衛生活動の強化
の4つの軸で進められています。

ANAグループ社員のQOLと企業価値向上、そして従業員が健康で長く働くことのできる環境の整備に向けて、これからより一層積極的に取り組んでいくことをこの宣言に込めているとのことです。

推進体制としては、ANAホールディングスに健康経営最高責任者(CWO=Chief Wellness Officer)を任命するとともに、グループ各社においてもウェルネスリーダー(WL=Wellness Leader)を選出して、従業員の健康にかかわる状況を正確に把握した上で、各種健康増進策を推進している、と佐藤氏は説明しました。

ウェルネスリーダーは毎年2回会議を行っており、健康経営体制の向上に努めているとのことです。

2. ANAグループの健康経営宣言の概要


ここからは、具体的にANAグループ健康経営宣言について解説が行われました。

1つ目の「健康管理の取り組み」については、例えば健康診断について、これまでは検査内容や基準がバラバラだったものをグループ全体で統一化を行い、産業医による結果フォローを、会社として支援することにより一人ひとりの健康状態の改善を目指しています。

2つ目の「疾病予防にかかわる取り組み」では、喫煙率の低下やメタボリックシンドロームリスクの抑制、さらに適正なBMI値への誘導も目指しています。

また、全ANAグループ会社に健康管理指標を設定しモニタリングを行い、ガンなどの生活習慣病のほか女性特有の疾病についても取り組んでいます。これは女性従業員が多いANAの大事な取り組みのひとつです。

さらに、禁煙や受動喫煙防止セミナーやピンクリボン活動、ウェルネスフェアなどの健康関連の体感イベント実施のほか、各空港の社員食堂でヘルシーメニューを提供しています。2018年に実施されたANAグループ主催の運動会では、健康経営ブースを設けて体組成計を用いた体年齢判定などが行われ、社長の平子氏も参加するなど会社全体で取り組んでいます。

3つ目の「メンタルヘルス対策の強化」では、ストレスチェックの実施や産業保健スタッフによるケア、社外相談窓口によるケアに加えて働き方改革にも取り組んでいます。

4つ目の「安全衛生活動にかかわる取り組み」では安全衛生委員回の活動を元に、健康でいきいきと働ける環境の整備を行っています。

それぞれのロードマップとしては、2016年〜2017年にかけて4つの取り組みを進めて、2018年度以降は各種取り組みのさらなる進化、効果の見える化やより実効性のある施策の展開が行われおり、2020年度には健康管理の指標達成を目指しています。

効果の見える化としては、プレゼンティーズムの分析を行って、結果を反映させる方法をとっています。さらに、新たな取り組みとしては、インセンティブや働き方改革との連携、ITツールを使用してグローバル化への対応も進めています。

3. キャノン創設当時から続く健康理念と健康経営の取り組み

続いての企業においての取り組みについてのセミナーでは、キャノン株式会社安全衛生部副部長の矢内美雪氏が登壇しました。

キャノン株式会社は、1937年創業で従業員数は単体で約2.6万人、連結では国内外で約19.7万人にのぼります。

キャノンを支える3つの柱としては、カメラやインクジェットプリンターなどのイメージングシステム、オフィス向けの複合機やレーザープリンター、さらにネットワークカメラやデジタルラジオグラフィなどの産業機器が挙げられます。

キャノンの成長戦略としては、既存事業に加えて新しい成長エンジンとしてB to Bにも力を入れています。ネットワークカメラ、商業印刷、ヘルスケア、生産自動化などについて永続的な成長のため、将来事業の創出に注力しており戦略的大転換が行われています。

企業理念として、「共生」を掲げており自発・自治・自覚の三自の精神、さらに健康第一主義も盛り込まれています。これは、「企業の成長は社員の健康と幸せな家庭生活の上にしか成り立たない」と考えた、御手洗毅(初代社長)の言葉から考えられています。

御手洗氏は医師としての経験もあることから、会社が従業員の健康の自己管理に取り組め、安心して働ける環境を作ることで、従業員は自分の健康状態を知り(自覚)、自分で改善や向上に向けた行動を起こし(自発)、継続的に自己管理できる(自治)という理念を作りました。

また、労働の量だけではなく労働の質も重視し、企業戦略的にも従業員の健康を守っていく理念が創業当初よりあった、と矢内氏は説明しました。

4. キャノンの健康支援とは

キャノンの健康支援は組織のミッションとして、内部環境の変化(戦略的大転換、働き方改革、人事制度)、外部環境の変化(第4次産業革命、健康経営、過労死やストレス)の2つがあります。

これらをベースにして、変化が続く中でも企業の目標達成に貢献することを目指しています。また、個人や組織が最大限の能力を発揮できるように社員や組織の自立を目指した健康支援としっかりと働ける職場づくりを企業活動として定着させるように考えている、と矢内氏。

国内グループの会社スタッフ数は、約7.2万人で全国各地に拠点があり、それぞれに、保健師や看護師、専属の産業医を配置しています。本社を含めた12拠点とグループ約40拠点とは互いに連携を取り、生産性向上や雇用の維持に努めており中央安全衛生委員会や各種連絡会とを通じて、健保と連携も行っています。

医療費の適正化や保健事業の健全経営、さらに加入者の健康増進などのコラボヘルスに取り組んでいます。

健康第一主義の施策の全体像としては、メンタルヘルス対策、生活習慣病対策、過重労働対策、がん対策の4つの軸があります。さらに、継続的な啓発や教育とコンプライアンスやリスクマネジメントの2つを合わせて取り組んでいます。

その一例としてメンタルヘルス対策では、一次予防(未然防止・健康増進)、二次予防(早期発見・適切な治療)、三次予防として(健康支援・再発防止)を中心に考えられています。それぞれ、セルフケア、管理職によるケア、産業保健スタッフによるケア、外部機関によるケアに分けられており、セミナーやストレスチェック、相談や支援などが行われています。

睡眠対策としては、一次予防においてポピュレーションアプローチと題した快眠キャンペーンが2007年より行われています。

また、二次予防としてはハイリスクアプローチと題して個別支援が行われています。一例として、睡眠施策である快眠キャンペーンは知る・はじめる・続けるという3ステップの取り組みが行われており、2016年から3ヶ年ずつ進められています。

全社員に対する情報発信としては、HPを通じて「クリック!健康力」という健康体操やたばこについての知識を紹介するなどの月替わりの記事を更新しており、毎月1万アクセスを達成しています。また、「ポイント年齢支援」では健康第一主義の浸透を目標にしており、年齢ごとにe-learning、誕生月にメール配信、退職以降も見据えた支援が行われています。

睡眠対策の個別支援では、全体での睡眠教育(セミナー)を開催、タニタの睡眠計スリープスキャンを使用した自宅での睡眠自己測定、個別面談を2回行っています。

全国の各拠点でトライアルを実施し、評価を行った上で、グループ展開としてスタッフ研修や睡眠計配置を行っています。さらに、ハイリスク者を対象としたトライアルではスクリーニング、メタボリックシンドローム改善評価、プレゼンティーズム評価も行っています。

5. キャノンの健康支援の進め方

健康支援の進め方はPDCAサイクルと呼んでおり、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)の4つをサイクルとして進めることでスピードアップを目指しています。

評価は、プロセス評価、インパクト評価、アウトカム評価、費用対効果を行って総合評価を積極的に行っています。このPDCAサイクルを行いながら、各施策をスパイラル状にアップさせて対象の特性やニーズに合った、より効果的な支援を行うようにしている、と矢内氏は説明しました。

企業の中で健康経営の取り組みの価値を生み出していくために、キャノン株式会社では医療職主体ではなく組織的な活動として定着させることを目指しています。

それには、企業の理解や社会環境の変化やタイミングなどの波を見極めるということ、科学的なアプローチ、社内外のプロフェッショナルとの提携、企業人として専門職として成長する力が必要であると考えている、とのことです。以上がキャノン株式会社として現在行われている取り組みである、と矢内氏は話しました。

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