【IKIGAI企業インタビュー】健康経営は単なる経営戦略ではない。傾聴力と実行力で働きやすさ・働きがいを創る(株式会社丸信)

丸信さんは、福岡県久留米市に本社を置く、包装資材販売やシール・ラベル・パッケージを製造する会社です。2022年から2年連続でブライト500にも認定されている健康経営優良法人。今回、従業員や地域の声に耳を傾け続ける代表取締役の平木さんに健康経営について伺ってきました。(インタビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役  熊倉 利和)

〔株式会社丸信〕

平木洋二さん(代表取締役)

迎  征依さん(広報)

1.若い従業員が亡くなったことをきっかけに健康経営を意識

――本日はよろしくお願いします。まず丸信さんについて教えてください。

平木社長:我々の主業務は食品向け包装資材の製造から販売で、ときにはデザインまで手がけます。また、シール・ラベル印刷やお客様の困りごとを解決するソリューション事業にも力を入れています。創業は1968年。今年(2024年)で57年目を迎えます。

――平木さんは丸信さんの3代目、40歳で社長に就任したと伺いました。就任前は何をされていましたか?

平木社長:丸信には27歳で中途入社したのですが、その前は約4年間、生命保険会社に務めていました。正直、子どもの頃から丸信だけには就職したくないと思っていて、親の会社を継ぐ気はまったくありませんでした。

――そうだったんですね。それはなぜですか?
幼少の頃の父は、常に仕事優先で運動会などの学校行事に来てもらえず、繁忙期であるお盆や年末は土日休みもないので、家族旅行に行った記憶もありません。なので、父の仕事に対して良いイメージが持てませんでしたね。

転機となったのは、大学4年の大学院入学試験のとき。受験に失敗し、もう理系として一流になれないと非常に落ち込むと同時に、“両親には自分にだいぶ投資してもらった。これからはお返ししよう”と思い、丸信を継ぐ決意をしました。

――そのときの原体験も丸信さんの健康経営に繋がっているのではないかと感じました。健康経営に取り組むきっかけはあったのでしょうか?

平木社長:従業員たちに、病気になってから後悔してほしくないと思ったことが健康経営の取り組みの始まりです。実は、数年前に20代や40代の若い従業員が病気で亡くなりました。会社としてできることがあったのではないかと非常に悲しく、悔しい思いをしました。

そんなときに見つけたのが「ブライト500」*1でした。健康になれば、仕事のパフォーマンスも上がりますし、ブライト500に認定されたら会社のPRにもなる。マイナスなことは1つもないと感じました。

――具体的にどんな取り組みを始めましたか?

平木社長:まず、保険会社が提供しているアプリを活用して、健康プログラムを取り入れました。歩くとポイントが貯まって健康食品が安く買えるなど、思わず歩きたくなる仕組みのプログラムです。

実際に、私自身も30代までは不健康だったんです。運動はまったくしておらず、お酒をたくさん飲み、いわゆる肥満体型でしたね。しかし危機感を感じて、40歳からマラソンを始め、体重を落としたらみるみる脂質異常も改善しました。

今は心身共に健康になった実感があります。この成功体験から“体重”はボーリングのセンターピン、つまり健康経営の鍵になると感じ、健康プログラムの提供を決めました。また、希望者限定で線虫がん検査*2もできるようにしています。

2.「シングルマザーの貧困問題に一石を投じたい」病児保育室の設置を決意

――丸信さんは、企業主導型保育園の運営にも力を入れていますよね。病児保育室も設置しているとお聞きしましたが、なぜ、そのような取り組みをされているのでしょうか?

平木社長:はい、本社の近くに保育園があり、病児保育も行っています。きっかけは、久留米市の貧困問題に取り組んでいるNPOの代表とお話する中で、シングルマザーの貧困問題を知ったことです。

小さい子どもがいるシングルマザーの場合、子どもが病気のときの預かり手がないと正社員としての雇用はされづらく、収入が減ってしまう。どうしても貧困に陥りやすいそうです。そのお話から病児育児室のある保育園が必要だと気づかされました。

当時、弊社にも約30名のシングルマザーの従業員が在籍していましたので、働くにあたっての苦労を聞いてみました。すると「どれだけ苦労したことか。どこにも子どもを預かってもらえないときは、家に置いて印刷機回してたんですよ、私」と言われ、向き合うべき課題だと改めて感じましたね。

まず、市役所にこの問題について相談しました。そこでは「その問題を対処するには政治しかないですよ」と言われ、“病児育児室のある保育園の設置”を公約に掲げる政治家を応援させて頂くことに。しかし、残念ながら落選してしまいました。そのとき、もう自分たちでやるしかないと思ったんです。

――保育園の設置を決めてからは、問題なく準備が進んでいったのでしょうか?

平木社長:順風満帆に準備が進んだわけではありません。運営は外部の会社に依頼したのですが、普通の保育園の運営では企業として十分PRにもなり、黒字経営を見込めるが、病児育児室を設置すれば年間1000万ぐらいの赤字になるだろうと説明されました。

それでも「私は病児保育をやりたいんです、この問題に一石を投じたいんです」と伝え、大赤字覚悟でゴーサインを出しました。現在では、従業員のお子さんはもちろん、地域の方にも利用してもらっています。

実は、現在では黒字経営になっているんですよ。会社にも従業員にも、社会にとってもプラスな持続可能な状態です。最初は苦労しましたが、最終的には地域にも受け入れられ、1つお役に立てたのではないかと思っています。

3.従業員全員が主役の物語をつくりたい

――丸信さんは、従業員の働き甲斐サポートもしていると広報の迎さんから伺いましたが、いかがでしょうか?

平木社長:誰か1人だけが主役の物語って、脇役の人たちからすれば面白くないと思うんですよ。なので、従業員全員が主役になれるようサポートしています。例えば、丸信では委員会とプロジェクトがあります。

社内のさまざまな経営問題の解決にあたってもらうのが委員会。採用や食品衛生分野のお手伝いなど、お客様への提供価値を上げるための活動がプロジェクトです。共に立ち上げから従業員に行ってもらい、それぞれリーダーとして活躍してもらう。

これらは、経営者の権限を渡していて、プロジェクトの決定権は従業員にありますが、社長として口出ししたくなってしまうのが正直なところ。ただ、それをやってしまうと「じゃあ、社長がやればいいじゃん」となるでしょうし、成長しないとわかっていますので日々我慢、葛藤しています(笑)

――広報の目線から、従業員のみなさんが働きがいを感じていそうだなと思うことはありますか?

迎さん(広報担当):社長は、1人ひとりが活躍できる場所を作りたいと常々言っています。実際に、従業員が主役になれるようなコンテストや企画をして、 従業員の頑張りを認められる会社にしていこうという考えが素晴らしいなと思っています。

――迎さん自身はどんなことに働きがいを感じていますか?

迎さん:そうですね。私は、社内広報として従業員とお話をさせていただく機会が多いのですが、情熱を持って仕事をされている人ばかりなんです。遠慮なく頼れるので、協力してプロジェクトを成し遂げられることに働きがい、やりがいを感じています。

4.コミュニケーションの壁は広報と乗り越えていく

――今、健康経営において課題に思っていることはありますか?

平木社長:今までさまざまな取り組みをしてきましたが、従業員が知らないことも多いんです。社内、工場の隅々まで情報を行き渡らせることの難しさに直面しています。従業員が使用している健康プログラムアプリについてはもちろん知っていますが、カーボンゼロ、障害者雇用など、何度説明しても理解が得られずトップダウンで行ってきた事例もあります。

私は、従業員と膝つき合わせて細かく説明していくコミュニケーションがあまり得意ではないので、弊社に在籍している3名の広報スタッフに協力してもらっています。

また、地域とのコミュニケーションも広報が担ってくれています。冒頭にお話した貧困問題はまだ解決しておらず、現在もNPOを支援しています。しかし、社長の私には細かい要望、例えば「子どもの制服が買えない」、「自転車が欲しい」など言いづらいこともあると思います。そのため、広報に窓口をしてもらっています。これからも、広報を媒体として、多くの企業さんや地域から要望を吸収したいと思っています。

――中小企業では広報が在籍していない会社も多いですよね。自分はコミュニケーションは苦手だからとそこで終わりにせず、広報を通じて従業員や地域と向き合おうとする平木社長の姿勢が素晴らしいです。

【取材後記】

平木社長が従業員や地域の声に耳を傾け、その声を具体的な行動に繋げる姿勢に感銘を受けました。今回、記事では詳しく紹介できませんでしたが、障害者雇用やカーボンゼロなどに対しても積極的に取り組んでいるそう。丸信さんの社会問題にも向き合い続ける取り組みは単なる経営戦略だけでなく、平木社長の正義感や企業としての使命感を感じます。このような企業の存在が、地域の発展に貢献し、他の企業にも良い影響を与えているのではないでしょうか。

<企業データ>

会社名:株式会社丸信

事業内容:包装資材販売/シール印刷加工/紙器印刷加工/その他商業印刷

所在地:〒839-0813 福岡県久留米市山川市ノ上町7-20

資本金:4,000万円

社員数:500名(2024年3月1日現在)

*1:ブライト500について

経済産業省は、健康経営推進のための取り組みに優れている企業を「健康経営優良法人」として認定し、中小規模法人部門 の上位層には「ブライト500」の冠を付加しています。ACTION!健康経営より

*2:線虫がん検査とは
がん細胞の匂いに引き寄せられる線虫の習性を利用した一次スクリーニング検査です。セントラルメディカルクラブより

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