シリーズ『私の生きがい組織』(第九回)お客さまに感動と幸せを!警備業界に新風を吹き込むリライアンス・セキュリティー株式会社代表取締役 田中敏也

リライアンス・セキュリティー株式会社の社長、田中敏也さん。「警備のお兄ちゃん」から「お客さまと感動を共有できる存在」へと、警備員の地位向上に半生を捧げてきました。原動力となっているのは、お客さまも従業員も、出会った人みなを幸せにしたいという熱い思い。警備業界に変革をもたらし続ける、唯一無二の存在として輝きを放ち続けています。(インタビュアー:健康経営の広場/IKIGAI WORKS 代表 熊倉 利和)

1.人生の転機は思わぬときにやってくる

「警備の会社で働いてください!」

今、振り返ってみると、この何気ない言葉が人生の転機となりました。

時代は昭和。学生結婚をし、すぐに子どもに恵まれた私は、生活費を稼ぐために建設現場でアルバイトをしていました。自分も肉体労働で過酷な現場にいましたが、そんな私の目からもさらに大変な人たちがいました。警備員です。現場の所長は「あいつらは、ただ立っているだけだろう」といって、食事をとる時間さえまともに与えない。「なんてひどいことをするのだろう。かわいそうに」。そう思わずにはいられませんでした。

警備員たちも、制服の乱れも気にとめず、挨拶もろくにしません。つまり、警備員のほうにも問題がある。それがわかっていても、アルバイトの私に何かできるわけではありません。やるせない思いになったのをよく覚えています。

ところが、そんな私に妻が新聞の切り抜きを持ってきて「お父さん、この会社で働いてください。」と声をかけてきたのです。よもや自分が、冷遇されている警備員になるとは思ってもいませんでした。

引き受けたのは、家族を養うために仕方なく。だから、すぐに仕事がイヤになってしまった。「いつ辞めようか」とタイミングを見計らっていたときです。会社の専務に呼ばれました。そして、「社員にならないか」と誘われたのです。

「君は、いつもよくがんばってくれている。君ならば、内部の仕事もしっかりとやってくれるはずだ」

内部の仕事とは、警備員を配置する指令室の業務や営業などのこと。「おだてられているな」とは感じつつも、人生、右に行くか左に行くか迷っていた時期だっただけに、「これはいい話だ」と、警備の世界に飛び込むことにしたのです。

私は、警備会社の営業マンとして働き始めました。自慢ではありませんが、営業成績はよく、仕事を次々に取ってくることができました。

ところが、肝心の警備の質に問題がある。警備員たちは挨拶をしない、仏頂面で対応する、言葉遣いがなっていないなど、お客さまに自信をもって勧められるレベルにまるで届いていないのです。

契約をした以上、お客さまに満足いただける商品を納期通りに提供するのが、営業の責任。警備会社にとっての商品とは、もちろん警備です。その品質を高めていくには、社員教育が急務でした。

さあ、どうしたものか。私は考えました。そしてまずは「服装に気を遣う」「挨拶をする」という、人として基本となるこの2点を徹底して社内に浸透させていったのです。

当時は、同じような警備会社ばかりでしたから、警備の質を高めると、仕事が次々に舞い込んできました。それにともない、従業員数も右肩上がりに増えていきました。

私が入社した昭和62年時には、50人ほどだった従業員が、平成12年、私が退社を決めたときには、800人にも膨れ上がっていたのです。

2.お客さまの幸せを守る「最強部隊」結成

会社が大きくなれば、社内トラブルも起こりやすくなります。思うところがあり、私は退社を決めました。すると、前会社の若者たちが、「田中さんと、もう一度働きたい」と集まってきたのです。

当時の私は、若いころの自分が知ったら驚くほど、「警備しか取り柄のない人間」になっていました。「警備ほどおもしろい仕事はない」という確信もある。前会社にて成功も失敗も学んでいる。「よし、やろう!」。私は思い切って新会社を設立しました。平成14年、リライアンス・セキュリティー株式会社の誕生です。

日本の社会は、安全で無事故であることを「当たり前」とする風潮があります。警備とは、その「当たり前」をつくっていく重要な仕事。そして警備員とは、お客さまの生命・身体・財産を守るという崇高な職業です。

ところが、その重責に相反して、警備員のイメージはあまりに低い。そのことを、無念に感じてきました。「どうすれば、警備の重要性が広く認知されるのか」。その答えは、長年の経験からはっきりとわかっていました。ノウハウもあります。簡単にいえば、「感動と幸せをお客さまと共有できる警備員」を育てていくことです。

1人1人が「お客さまを幸せにしよう」と心がければ、警備サービスの品質は確実に向上し、お客さまに感謝されます。その喜びが、警備員のやりがいになる。仕事に誇りを持っている警備員ほど、頼もしく凛と見えるものはありません。お客さまは「この警備員さんにまた頼みたい」と思ってくださるでしょう。それが、従業員自身の成長と収入アップにもつながっていきます。

「ギブ・アンド・テイク」との言葉がありますが、自分が幸せになりたいなら、まず人に与えるところから。警備の仕事も同じなのです。

この考えを社内で共有するには、どうするべきか。私は、「リライアンス・セキュリティー株式会社とは、お客さま集団主義である。」という経営理念を掲げました。

求めるところは、社員教育によって、感動と幸せをお客さまと共有できる「最強部隊」を育てること。とくに徹底しているのは、「きびきび行動」「はきはき対応」「てきぱき案内」という行動のあり方と、「挨拶」「服装・身だしなみ」「表情」「順序・序列」「姿勢・態度」「言葉遣い」という礼儀。これらを徹底的に行っていくことです。

他にもさまざまな社員教育を行い、業界では「リライアンス・セキュリティーの教育はすごい」と知られるほどになりました。そこまで行うのは、従業員に警備の仕事に誇りをもってもらい、幸せになってほしいから。その一心なのです。

3.社員の死が健康経営のきっかけに

警備の仕事は体力も忍耐力も重要。では、会社として何をするべきか。答えは1つしかありません。健康経営の推進です。もともと、従業員の健康には気を遣ってきましたが、健康経営を熱心に行うようになったのには、きっかけがありました。ある日突然、社員が亡くなってしまったのです。

一人暮らしの社員が、朝、出勤してこない。いくら電話をしてもつながらない。心配して見に行くと、すでに動かなくなっていました。とくに持病もなく、直前に体調不良を訴えていたわけでもない。まったく予想外の出来事でした。

大声で名前をいくら呼んでも、彼はもう戻ってはきません。私にとって、社員は家族そのもの。その死ほど悲しいことはない。「社員を守るどころか、死なせてどうするんだ」。二度とこんなことをくり返すまいと決意し、社員の健康管理をそれまで以上に熱心に行いました。

ところが数年後。ある社員が、熱中症で救急搬送されたのです。創業からともにがんばってきた社員でした。私も同じ現場にいたため、救急車に一緒に乗り込みました。しかし、できたことといえば、ICU(集中治療室)の前で祈ることだけ。「どうにか助かってくれ」と手をあわせ続けました。無事に回復してくれたときには、心底ほっとしました。

警備員にとって、熱中症ほど怖いものはありません。それほど、死と結びつきやすい。だからこそ、対策は十分に行っていました。それでも熱中症で倒れる人を出したのは、健康経営がまだまだ足りていなかった、ということにつきるのでしょう。

この2つの出来事をきっかけに、それまで以上に健康経営に熱心になりました。「朝ご飯はちゃんと食べてきたか?」「夜、お酒を飲みすぎてはだめだぞ」などと、こまめに声もかけています。健康経営は、まじめにコツコツと、みなのためになることを行っていくことが、いちばんの方法です。「こんなことをしてほしい」という意見が出たら、すぐに動く。「社員の健康維持に必要」と思えば、迷わず導入する。そうしたかいもあって、あれからは熱中症で倒れる人も、突然死する人も出ていません。コロナ禍でも、重症化する人を出さずにすんだのは、本当にありがたいことでした。

4.警備員は「お客さま」である

健康経営は、従業員のためのものです。ところが、もっとも変わったのは、社長である私でした。

自分でも驚くほど、社員を見る目が優しくなった。以前は「鬼の田中」と呼ばれていたこともありましたが、「がんばって働いてくれて、ありがとう」「健康でいてくれて、ありがとう」と自然と頭が下がるほど、社員に対する言葉遣いや振る舞いが変わりました。

当社の幹部は、私も含めて巡察をよく行います。巡察とは、各地にいる警備員の勤務状況を見にいくこと。警備員がきちんと仕事をしているか確認し、現場で教育を行うのが巡察の目的ですが、最近の私は、みなの姿が愛おしくてしかたがないのです。

現場で、警備員は危険と隣り合わせです。ケガをする可能性もあれば、感染症をうつされることもある。それでも現場に立ち続けてくれる彼らがいるからこそ、会社は成立します。そんな彼らの安全と尊厳を守ることこそが、会社としての存在意義ともいえるのでしょう。

「何があっても、会社はあなたがたを死に物狂いで守る。だから、安心して現場で活躍してきてください」

この思いを警備員に伝えるには、どのように表すとストレートに届くのか。長い間、考えてきたその答えを2022年夏に出せました。「警備員は第3顧客である」と社内で取り決めたのです。「お客さま主義集団」であるリライアンス・セキュリティーらしい規定ではないかと考えています。

第1顧客は、仕事を直接依頼してくださる契約上のお客さまです。

第2顧客は、契約者さまがお守りしたいお客さまです。たとえば、スーパーが第1顧客としたら、第2顧客は買い物客。依頼主にとって何よりも大切なお客さまを、私たちも同じように大切に守りましょう、と日々伝えています。

そして、警備員こそが第3顧客。第1顧客、第2顧客と警備員を同等として、彼らの安全と尊厳を守るとともに、幸せと感動を共有しよう、と定めたのです。

この重大な視点を持つことができたのも、従業員が健康でいてくれるありがたさに気づかせてくれた健康経営のおかげだと感じています。

5.超一流は「送り出して、応援する」

警備の現場では、さまざまなことが起こります。しかし、どんなトラブルを前にしても大事なのは、「お客さま主義集団」に徹することです。

最近、こんなことがありました。地域で大人気のカフェから、ドライブスルーの警備の依頼が入りました。そこは大繁盛店で、人も並べば、車も行列ができてしまう。その警備があまりに大変で、次々に警備会社が逃げ出してしまうとのことでした。

お店の要望は、お客さまの安全と、近所に迷惑をかけないこと。そのためには、車の行列を防ぐことが大変重要です。しかし、大人気店だけあって、車は次々にやってきます。「並ばないでください」といっても、うまくいかない。近所からは苦情がきます。110番通報され、パトカーまでやってくる始末。その対応も、警備員に任されます。

「あまりにも大変過ぎる。もう辞めたい」。新人の警備員たちが次々に音を上げました。私は彼らとじっくりと話しあいました。

「お客さま主義集団」に徹するとは、どういうことか。お客さまの気持ちに寄りそうことです。それは、言葉遣いと態度で示せるのです。

第一に大事なのは、「すみませんが、ここに並ばないでください」とのいい方をしないこと。こちらが「すみません」といえば、お客さまは「何か文句をいわれるのだろう」と臨戦態勢に入ります。つまり、「すみません」の第一声で、お客さまの戦闘スイッチを入れているのは、警備員自身なのです。

次に大事なのは、厳しい表情や困った顔をしないこと。表情も、相手の戦闘スイッチを入れるには十分な要素です。

では、具体的にどうするとよいのか。「いつもご利用ありがとうございます」「○○店をご愛顧いただきまして、誠にありがとうございます」と感謝の気持ちを笑顔で伝えることです。

ご近所に迷惑をかけるほど車が並んだときにも、「いつもご利用ありがとうございます」とニコニコと話しかけるだけでいい。警備員が近寄っていけば、相手は何の用事か察します。こちらが本題をいわずとも、笑顔で感謝の気持ちを伝えれば、お客さまは「混んでいるから、またあとで来るよ」と多くの場合は移動してくれるのです。

ただし、なかには正攻法では納得しないお客さまもいます。わざと警備員を困らせる人もいる。この場合、次の手を考えるのは、経営陣である私たちの仕事です。第1顧客も第2顧客も大切ですが、第3顧客を守れるのは会社だけ。お店と相談しながら、どうすればお客さまにルールを守ってもらえるか、方法を検討しました。そうすることで「会社はこんなにも自分たちのことを考えてくれている」と示すことができる。「守られている」という安心感があってこそ、人は自分の仕事を全うできるのです。

私は長い間、「事業を成功させて金を残すのは三流。名前を残すのは二流。一流は人を残す」という言葉を座右の銘にしてきました。私自身、「ようやく〝一流〟になれてきたのではないか」と感じていたときのことです。この言葉を超える超一流の人に出会ったのです。

「手塩にかけて育ててきた右腕、左腕を、自分のもとに抱え込むような経営者になってはいけない。外に送り出し、金も仕事も人も、すべてにおいて応援してあげるのが超一流」

この言葉を聞いたとき、あまりに驚き、思わず涙が出ました。人を手間暇かけて立派に育てたら、手もとに置いておきたいと考えるのは人情。しかし、超一流は「送り出して、応援する」のです。それが業界全体の発展にも役立っていきます。

私たちは、今後、超一流の警備会社を目指していきます。社員たちにも「独立したければ、金も仕事も人も支援する」と伝えています。その根底にあるのは、「リライアンス・セキュリティー株式会社はお客さま主義集団である。」という理念と、何が何でも警備をやり遂げようとする執着心。このスピリットを抱く警備員を1人でも増やして世に送り出していくことが、すべての方々の幸せと感動と満足につながっていくのだと信じています

【取材後記】

リライアンス・セキュリティーには、「RSS」という文字をロゴにしたバッジがあります。「RSS」とは、「リライアンス・セキュリティー・スピリッツ」の略。「お客さま主義集団」であり続けるための心構えを示すもので、その精神を持っている従業員に配る大切なバッジだそうです。そこには、「自分自身の思いはまず置き、お客さまに喜んでもらうにはどうするとよいかをまず考えよう」という田中社長の思いが込められています。かつて、「警備のお兄ちゃん」といわれていたところから、幸せと感動をお客さまと共有できるプロフェッショナルへと育てていく。そんな田中社長の覚悟が、リライアンス・セキュリティーを唯一無二の警備会社へと発展させる原動力になっているのです

<企業データ>

会社名:リライアンス・セキュリティー株式会社

事業内容:施設警備・交通、雑踏警備・身辺警備・セキュリティコンサルティング

所在地:〒730-0845 広島県広島市中区舟入川口町14番22号

資本金:1,000万円

社員数:225名

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