シリーズ『広報担当に聞く』戦略広報で社内外に効果的な情報発信(ファイブグループ)
健康経営を続けていると人財採用、従業員のエンゲージメントや満足度の向上など多くのメリットを生み出しますが、その効果を格段に高めるのが広報の力。今回は、『社内報アワード』に輝くなど、戦略的で効果の高い広報戦略を実践しているファイブグループの広報担当の方にお話を伺いました。(インタビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表 熊倉 利和)
[株式会社ファイブグループ]
式地知美さん(経営企画部 コーポレートコミュニケーション・広報)
目次
1.新たなワクワクを探すため店舗から広報へ
――ファイブグループさんは、『社内報アワード』を受賞するなど社内報の素晴らしさに定評があります。さらにLINEやnoteなども活用し、社内外とのコミュニケーション、PRのうまさにも目を見張るものがありますね。今回はぜひこれらについてお聞きしたいのですが、その前にまず式地さんご自身のキャリアについて教えていただけますか?
式地さん:はい。わかりました。ファイブグループとの出会いは、学生時代の居酒屋店舗でのアルバイト。2011年のことです。「関わるすべての人が楽しくなれる」という会社の価値観に惹かれるとともに、これほど自由に働かせてくれる会社はなかなかないとも感じました。
いちアルバイトにも当時の営業部長が近しく接してくれ、店長、エリアマネージャーなどの上司もユニークで尊敬できる人ばかりでした。
就活では、業界や職種より人を重視していましたので、卒業後、そのままファイブグループに入社しました。店長職を経て、バックオフィス部門に移動。2019年から会社理念のアップデートなどに関わり、広報に就任。現在に至ります。
――店舗からバックオフィスに移ったのは式地さんの希望ですか?
式地さん:3店舗の店長(店舗責任者)を経験し、自分が店舗でやりたかったことは全部やり切ることができました。次にワクワクしながら取り組める仕事は何だろうかと考え、業態長にも相談していました。そんな折、経営企画の責任者から「店舗経験が豊富な人たちの中で、バックオフィスに来てくれる人を探している」という話が出た時、業態長から「ウチにピッタリな人財がいます」と言っていただいたのがきっかけです。
――なるほど。バックオフィスではどんな業務に取り組みましたか?
式地さん:まず坂本社長にインタビューし、社長の考えや想いを言語化して従業員に伝えていくという社内広報の仕事に取り組みました。そして、プレスリリースやメディアリレーションなどのいわゆる広報らしい広報、社外に向けた広報も担当するようになっていきました。
2.働くことは楽しい。全従業員のための社内報に
――では、社内報についてお聞かせいただけますか?
式地さん:はい。もともと紙媒体の社内報があるのですが、もっと頻度を上げたいということになり、それで通信(インターネット)による社内報をスタートさせました。会社も大きくなり、社長や業態長などの話を聞く機会も少なくなっていましたので、最初の頃は、それらを中心に社員に伝えていました。
すると、「もっとナレッジやノウハウを学べるものが読みたい」「新しい社内制度ができたので、それを浸透させるための記事を作ってほしい」といった要望が出てきて、社員だけでなく、アルバイトさんも含め、従業員全員の働きがいや働きやすさ、安心感に繋がる内容にしようと方向性が変わっていきました。
――なるほど。読者としてアルバイトさんも含まれるようになったのですね。
式地さん:はい。飲食業の現場の8割はアルバイトさんです。アルバイトさんが楽しく働ければ、お客様にもそれが伝わりますし、良いお店になります。分母の大きい部分に働きかける社内ブランディングの一環ともいえます。
会社の規模も大きくなり、それまでの『関わるすべての人が楽しくなれる環境をつくること』という創業理念から、関わり方をもっと広げていくために『「楽しい」でつながる世界をつくる』に会社の理念をアップデートしたのを受け、2020年、クレドブックも発行しました。
――『関わるすべての人が楽しくなれる環境をつくること』や『「楽しい」でつながる世界をつくる』という理念の元で働いてきた式地さんご自身の仕事の楽しさはどうでしたか?
式地さん:私は性格的に新しいことに取り組むことが好きです。例えば、次から次にたくさんの記事を作ることや、どういう表現をすればもっと言いたいことが伝わるか、といったことを考え、カタチにしていくことがとても楽しい。店長としての広報の仕事を未経験で始め、新しいことばかりでワクワクしっぱなしです。
3.営業や人事のニーズも叶える広報
――それにしても、式地さんの業務内容はかなり多岐に渡りますね。
式地さん:そうですね。会社のブランディングとコミュニケーション戦略全般ということになります。それを大きく分けると社外向け、社内向けのものになります。社外向けは、プレスリリース、メディア対応、ホームページ、SNS関連の運用など。社内向けが、社内報、LINE、note、グッズなどの制作、それとイベントの企画運営。当社は毎月のように数百人規模のイベントがあるのですが、それらをイベントチームと一緒に行っています。
――外部や社内の方に協力いただくとはいえ、式地さんが相当頑張っている印象を受けます。
式地さん:ありがとうございます。ですが、社内にはもともとたくさんの情報があります。例えば、業態ごとのミーティングや店長同士のLINEなどから拾ってきて記事を作成することも多いですね。
――確かに、その度にインタビューを設定して、話を聞くといったことはお互いに大変。それよりは、日々の会議や従業員同士のコミュニケーション、従業員からの情報発信が自然と記事になるという形が理想ですね。
式地さん:はい。広報のためだけに記事を作成するのではなく、営業部としても力を入れたい店舗がありますから、取材する店舗の選定でも事前に営業部の人に「どの店舗にしますか?」と相談して決めていきます。
――なるほど。営業側、店舗側の人たちからすると、広報に協力するというより、自分達の売上、KPI達成のために広報が協力してくれるという形でもあるのですね。
式地さん:おっしゃる通りです。実際の取材を受ける従業員についても、「アルバイトの中で一番社員に誘いたい人は誰ですか?」といったことを聞いて人選の参考にしています。
――それはいいですね。取材を受けたアルバイトさんも、会社からとても期待されているということがわかり、仕事のモチベーションが高まります。また、会社側からの「社員になりませんか?」というアプローチにもなっている。まさに広報と人事が一体となった取り組みですね。
4. LINEとオープン社内報をリンクさせ情報拡散
――今、社内LINEの登録率や社内報の読了率は?
式地さん: LINEについては、入社時に手続きをしますので登録率98%です。通信の社内報の読了率はアルバイトさんを入れて50%前後ですが、社員に限定すると90%です。そして、これはLINEや社内報だけの成果ではありませんが、働きがいを感じている人の割合が高くなっており、2019年7.53(10点満点)であったものが、2021年は8.78になりました。
社内報を紙媒体でやっていた頃は、読了率が23%でした。それがコロナ禍もあり、アルバイトさんも店舗におらず、社内報を手にする機会も少ないのでLINEで送ることになってから読了率がぐんと高まりました。「紙媒体のほうがいい」という意見も根強いのですが、実際の読了率を見るとやはり通信でやったほうがみんなに読んでもらえますね。ただ、紙媒体には紙媒体の良さがありますので、総会などでは紙媒体のものを発行し、今年度の方針、戦略などを伝えるようにしています。
――採用にも良い影響はありますか?
式地さん:はい。採用ではnote(ファイブグループ公式note ~飲食業界×オープン社内報~)の効果も大きくあります。このnoteは、社内だけでなく、どなたにも見てもらえるもの。ここまで社内の情報をオープンにして大丈夫なのかというお話もいただくほどなのですが、それが採用にもとても良い効果をもたらしてくれています。
取材を受けたアルバイトさんは、その記事を自分のSNSでも紹介してくれますし、ブランド(店舗)のお客様の声を紹介すると、そのお客様が拡散してくださる。記事ごとにそれぞれの広がり方をしますので、採用や店舗PRの効果も高いですね。
――noteを読んでもらうため何か工夫をしているのですか?
式地さん:まずnote自体に媒体パワーがありますから、ハッシュタグに気を配ることで3割がオーガニック(検索エンジンからの自然流入)になっています。
それと、社内の人にも「note読んでください」「今度はホームページを読んでください」となると、読む方も面倒に感じてしまいます。ですから、LINE経由で社内報も、noteも、プレスリリース記事もすべて読むことができる仕組みにしています。
――なるほど。登録率98%のLINEを起点に、社内報、note、プレスリリースなどが紐付きされているのですね。
公式サイト:https://conetto.me/ex/
5.社内外を連携させ、相乗効果を生み出す
――広報の仕事をされてきたわけですが、これまでを振り返ってみてどうですか?
式地さん:そうですね。様々な課題解決に点と点で取り組んでいたことが、去年あたりから線で繋がり始めました。今年はそれをさらに体系化し、面にしていこうという段階に入れたと思います。
――長い時間をかけて社内外の広報に取り組み、『社内報アワード』も受賞されています。
式地さん:はい。リクルートさん、ヤフーさん、ニトリさんなどとても高名な企業の中に当社の名前が並ぶだけでも、広報効果がとてもあります。また、「飲食業でもこういう企業さんと並ぶことができるんだ」ということで、従業員の働きがいにも繋がると思っています。
アワードや認定などは、会社の規模や業種などによって難しいこともありますが、「社内報」や「健康経営」など一つのことなら秀でることができますし、そこに勝負をかけ、アピールしていくこともできます。
――まさに一点突破ですね。大企業なら広報担当が何人もいると思いますが、御社では式地さんお一人。それなのにアワードで肩を並べたのは、戦略広報の成果ですね。
式地さん:ありがとうございます。『社内報アワード』をいただいてから、私自身、セミナーの講師などにお招きいただく機会も増えました。私は本来、性格的にあまり表に出たくないタイプなのですが、社名を知っていただく良い機会にもなりますし、いただいたお話はできるだけお受けしようと思っています。
――『社内報アワード』受賞は、新卒採用にも良い影響があったのでは?
式地さん:はい。就活生に響くかどうかということは、社長の坂本も常日頃からとても重視していること。アワードや認定などの話をする時も、「それは新卒の学生さんに響く?」と聞いてきますし、採用に繋げていこうという想いは社内に強くあります。
――なるほど。広報として目覚ましい活躍をされていますが、今後やりたいことはありますか?
式地さん:大企業の広報ですと、社外向け、社内向けにセクションが分かれていて、あまり連携がとれていないケースもあるとお聞きします。当社では良くも悪くも、広報関連は私一人で全領域を担当していますので、その分、動きが速い。このことを活かし、社外向け、社内向け広報をさらにうまく連携させて、相乗効果を生み出していきたいと思っています。
例えば、新しい店舗の開店時、2,000名の従業員がそれぞれのSNSで拡散してくれたらかなりの販促効果が生まれます。それは採用も同じ。リファラル(紹介・推薦)だけで、毎年アルバイトを1,000名採用できるかもしれません。そういったことができるのも、ファイブグループの社風、土壌、これまで取り組んできたことがあるから。ファイブだからこそできることに力を入れていきたいと考えています。
【取材後記】
「健康経営優良法人(大規模法人部門)」に5年連続で認定され、働きがいのある会社(GPTW) にも6年連続ランクインしているファイブグループさんの大きな強みが広報力。『社内報アワード2021』においても、アルバイトさんやコロナ禍での会社離れに対する社内コミュニケーションなどが高く評価されたと言います。今回の取材においても、その工夫に満ちた様々な取り組みに大いに感心させられました。ファイブグループさんは、健康経営はもちろん、広報戦略においても先頭を走っています。
<企業データ>
会社名:株式会社ファイブグループ
事業内容:飲食事業(居酒屋・ダイニング等)の経営・企画・運営店舗プロデュース事業
所在地:(本社)東京都武蔵野市吉祥寺本町2-5-10 いちご吉祥寺ビル 7階
資本金:1,000万円
社員数:2,000名(うち正社員350名)