【社会保険労務士法人 名南経営】健康経営は一人一人のヘルスリテラシーを高め、よく生きるための手段 

中堅中小企業を中心に経営を総合的にサポートする名南コンサルティングネットワークの一員である社会保険労務士法人 名南経営さん。人事労務に関する高い専門性を持ちながら、幅広いサービスを提供。そんな社会保険労務士法人名南経営さんは、ヘルスリテラシーを高めることを大切にしながら健康経営に取り組んでいます。(インタビュアー:健康経営の広場 編集長/IKIGAI WORKS代表取締役  熊倉 利和) 

〔社会保険労務士法人 名南経営〕

小山邦彦さん(相談役・前代表社員)

田代倫大さん(マネージャー)

1.健康に関する知識があれば人生が大きく変わる

――まずは社会保険労務士法人 名南経営さんについて教えてください。

田代さん:はい。社会保険労務士なので人事労務に関する手続きや制度設計、コンサルティングなどを行っています。メンバーは現在33名。お客様の業種は問いませんが、愛知ということもあり、自動車関連企業は多いですね。また、グループの税理士法人が医療・福祉系に強いので、その関係で当社のお客様にも医療・福祉系の企業が多くいらっしゃいます。

――社会保険労務士法人 名南経営さんは、名南グループの一員ということですね。

田代さん:そうです。名南コンサルティングネットワークは、1966年に税理士事務所を設立したことに始まります。

小山さん:創立者の構想に「経営に必要なことを全て揃え、ビジネスの総合病院を作る」というものがあり、それで最初に税務、その後、お客様のニーズに合わせながら社労士、行政書士、司法書士、経営コンサルティングなどの事業が次々と生まれていきました。私が入った頃はグループ全体で40名くらいの規模でした。

田代さん:今はグループ全体では600名を超えていますね。

――なるほど。健康経営に取り組み始めたきっかけは?

小山さん:健康経営優良法人認定の制度ができる2年程前、個人的にフィジカルトレーナーから体の使い方や食事などについての指導を受けていました。これがとても大切なことだったので、それを事務所のメンバーにも紹介しようと思い、1年かけて健康講座を開催してもらいました。

田代さん:健康経営優良法人認定の制度ができるということを聞き、試しに項目をチェックしてみたら、その時点で全て埋まり、それなら申請しようということになりました。ですから、認定ありきではなく、私共がやってきたことが結果的に認定のための条件を満たしていたということになります。

――ちなみにその先生はどのような方ですか?

小山さん:オリンピック選手など世界中でアスリートの指導をされている方です。私が経営者の集まりでたまたま知り合い、個人的に指導をお願いし、体の使い方や食事などについて学びました。

――従業員向けの健康講座はどんな内容だったのですか?

田代さん:月に1回、1時間から1時間半の授業の中で、食事、睡眠、運動などテーマを決め、講義を受けたり、ワークをしたりしました。

――小山さんがご自身だけでなく、従業員の皆さんにも先生の講義を受けてほしいと思った理由は? 

小山さん:その先生が教えてくれる運動や食事、睡眠などの知識やメソッドを知っているかどうかで、体と心の状態に大きな違いが出ると知っていたからです。健康に関する知識をしっかり身につけ、幸せな人生を送ってほしいという気持ちからでしたので、仕事のパフォーマンスを上げるといったことはあまり考えていませんでした。

2.なぜやるのか、腹落ちした上で取り組む

――そのフィジカルトレーナーの方の指導がベースになっているとのことですが、現在はどんな健康施策をしていますか?

田代さん:今はラジオ体操もやっていて、月曜、木曜が第二、水曜が第一、火曜、金曜は若手従業員が工夫を凝らしたものをやります。金曜は仕事の疲れも溜まってくるということで朝ではなく、15時に行うようにしています。

水も会社が半額負担しています。最初は全額会社負担で運用していましたが、メンバーにて運用方法を考えてもらったところ、それだと逆に受け身になったり、遠慮が出たりして続かないので、1本50円のところ半額を各自が負担しています。ですから、特別なことをしているわけではありません。それよりも、なぜ必要なのか、なぜやったほうがよいのかといった意図や理由を考えたり、理解してもらうことを重視しています。

例えば、水にしても、人は普通に生活していても1日に2リットルの水分を放出するので、その分を飲んで補給しないといけません。「水を多く飲みましょう」とよく言われますが、なぜ飲む必要があるのか理由を理解した上で飲んでもらうようにしています。

小山さん:そうですね。体を冷やしてはいけないので、常温の水を飲んでもらうようにしています。

――「運動しましょう」「食事に気をつけましょう」とただ言うのではなく、なぜやるのかという理由を理解してもらい、腹落ちさせることが大事ということですね。

田代さん:はい。健康は個人のことなので放っておいてほしいという気持ちもあると思います。お酒も飲みたいし、ラーメンだって食べたい(笑)。ダメだ、ダメだと言うだけではやる気が起きません。しっかりとした知識を持ち、日頃から健康に気をつけて生活をしているなら、ラーメンもこれくらいなら食べてもよいといったこともわかってきます。

小学生の時に教わった手洗い、うがいと同じで、当たり前のことを当たり前にすることが大切なのだと思います。なぜそれが必要なのか腹落ちした上で行えば、「それならこうやった方がいいな」と自分で考えながら、前向きな姿勢で取り組むことができるようになります。

3.従業員が自ら進んで推進役になる

――健康経営のきっかけを作った小山さん、推進役となった田代さんの他にもメンバーはいますか?

田代さん:はい。若手も含め、その場面、場面で関わる人が違い、推進役になったり、アイデアを出してくれています。例えば、友人の理学療法士から肩こり解消のやり方を聞いて、それを毎朝の体操に組み込んでくれるメンバーもいます。また、管理栄養士の資格を持っているメンバーもいて、栄養に関する研修をしてくれるとともに、毎月新聞を発行。自社だけでなく、グループ会社の人たちにも読んでもらっています。過去に行った運動会はプログラムもメンバーで考え、必要なものは100円ショップで購入。市の体育館をお借りして行ったので費用は6千円くらいしかかかりませんでした。

――従業員の皆さんが自ら進んで企画を出したり、推進役になってくれるのですね。実際に何をやるかは会議などで決めるのですか?

田代さん:いえ、もっとフランクな感じです。それぞれがよい情報を得た時などに、「これやってみようか?」といったことで動き始めたりします。きちんと計画的にやっているわけではないのですが、自然にブラッシュアップされていきますね。一番大切にしていることは、推進する人も、参加する人も楽しいと思えることです。

――確かに、トップダウンで強制的に健康経営を進めると、担当者は義務感だけが先立ち、辛そうにしていることもあります。どうやれば従業員が自ら進んで動いてくれるかで悩んでいる企業さんも多い。その点、御社は誰に言われるまでもなく、従業員の皆さんが積極的に動いていることが素晴らしい。

田代さん:それは私たちの企業文化もあるかもしれません。何かを人に強制的にやらせようという考えがそもそもありませんから。ですから、健康経営にしても、きっかけや機会は提供しますが、決して強制はしません。逆に言えば、健康イベントに参加した人に何かインセンティブを与えるといった発想も出てきません。

――運動会などの健康イベントを行うことで事務所に変化はありましたか?

田代さん:当社は健康もそうですが、活動を通してコミュニケーションの活性化に効果があったことを実感しています。

運動会は平日の夜に2時間くらいかけて行いました。二人三脚など5競技をやりましたが、期待以上に盛り上がり、参加できなかった人が悔しがったほどでした。やる前は否定的な意見もあったのですが、いざやってみたら、みんなとても楽しんでくれました。特に運動会をした後の1週間は、メンバー同士の仲が驚くほどよかったように思います。

4.健康経営をお客様へ展開

――社労士法人である御社の業務自体、働き方と関係するものですから、健康経営との親和性が高い。お客様に健康経営を提案することはしていますか?

田代さん:はい。「健康経営優良法人の認定を受けたいのだが、どうすればよいか?」といったお客様に対する導入コンサルティングや、一緒になって課題解決に向かうファシリテーターをさせていただいています。

健康経営の取り組み効果が健康課題の解決だけに絞られるわけではないことも実感しています。例えば、社内の雰囲気が殺伐としていることに悩んでいたお客様は、健康経営に取り組み始めてから社内が明るくなり、経営者の方もとても喜んでいるとのことでした。特にその経営者の方は「従業員の心身の健康があってこその仕事」というお考えを元々お持ちだったので、余計に効果を実感されているのだと思います。

――健康経営を推進する企業にどんなアドバイスをされていますか?

田代さん:それぞれの会社で、何を課題に感じていて、どのような理想があるのかをしっかり聞くことから始めています。そして、実際の取り組みに対して、特に健康に対して無関心である人たちが気になってしまうような、前向きな方法を一緒に考えます。例えば、各社で歩数を競うアプリで100社中10位以内になったと嬉しそうに話していた担当の方がいらっしゃいましたので、「そのことを社内の皆さんに伝えましたか?」と尋ねたところ、伝えていないとのことでした。それで、「必ず伝えてください。社内の話題となって盛り上がりますし、次の健康イベントにも繋がりますから」とアドバイスさせていただきました。

――確かに健康経営を浸透させ、成功に導くために社内外への広報活動はとても大事ですね。自社だけでなく、お客様への健康経営の提案は今後も続けていきますか?

田代さん:はい。本当はファシリテートだけでなく、実際の機会も作っていきたい。健康経営では大企業の事例がよく取り上げられます。ですが、中小企業が同じことをやろうとするとコストやマンパワーなどで難しい面も数多く出てきます。ですから、ウォーキングイベントなどを共同で開催するのもよいですし、食事や栄養に関する知識をレポートやセミナーで共有できるのではないかと考えているところです。

――自社の取り組みを社内外にPRしたほうがよいとお客様にアドバイスしたとのことですが、御社自身は外部へ情報発信をしていますか?

田代さん:はい。若手メンバーなどがスタッフブログで健康経営などについて紹介してくれています。私自身、新卒で入社したのですが、入社前は社労士法人という仕事柄、堅苦しいイメージを持っていました。でも、実際は人間味に溢れた組織です。若手のメンバーがブログで発信してくれることは採用でも効果があり、応募者にも「事務所の雰囲気を掴むためにこのブログを読んでください」と伝えています。

5.認定ではなく、効果が大事

――今後のビジョンは?

田代さん:健康経営は、弊事務所のメンバーにとってよいことなので続いているのだと思います。逆に認定を受けることを目的にしていたら、途中で終わっていたことでしょう。あくまで健康経営は、一人一人が善く生きるためのツールであり、働く人と企業に役立つものでないといけません。そこは大事にしていきたいですね。

ですから、「認定さえ受けられればよい」というお客様に対しては、「それなら止めたほうがいいですよ」とはっきり伝えます。認定をとることが目的になると、やる側がしんどくなるだけです。本当にやりたいと思う人が担当や推進役にならないといけません。中小企業が健康経営を推進していくのは、コスト、マンパワーなど大変な面もありますから、認定が目的ならコストをかけてまでやる必要はないかもしれません。

――認定にはこだわらないほうがよい?

田代さん:ただ、取れないとなるとそれも悔しい(笑)。健康経営優良法人認定のチェック項目を埋める作業は、ある意味、定期検診のようなもの。どれくらいできているか今の状態を確認した上で、ブラッシュアップしたり、新たな取り組みを始めるためのきっかけづくりにもなります。うまく活用しながら、従業員の行動変容に繋がるきっかけ作りをしていきたいですね。

【取材後記】

健康経営において、やっていることはとてもよい内容なのになかなか浸透しない。従業員が動いてくれないと悩む企業も少なくありません。社会保険労務士法人 名南経営さんは、元々の企業風土もあり、従業員が進んで参画。健康はもちろん、コミュニケーションの活性化にも役立てています。それができているのは認定ありきではなく、一人一人のヘルスリテラシーを高め、従業員が幸せに生きるための手段にしてほしいと考えているから。健康経営の本質を改めて確認させられる貴重なインタビューとなりました。

<企業データ>

会社名:社会保険労務士法人名南経営

事業内容:人事制度改革コンサルティング、就業規則整備コンサルティング、職場のルールブック整備コンサルティング、労働時間管理最適化コンサルティング/労務監査、労働トラブル・労働基準監督署等調査対応、人事労務相談顧問、社会保険・労働保険手続アウトソーシング、給与計算アウトソーシング/海外進出企業の人事労務環境整備コンサルティング、労働コンプライアンス研修、人事評価者訓練

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